寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「ヴァルト様、下に降ろしていただけますか?」
「駄目だ」

 逆にぎゅっと抱え込まれてしまう。仕方なしに抱えられたまま、リーゼロッテは再び緑の繭玉に手を伸ばそうとした。

「駄目だ。触れずにどうにかしろ」
「そんな……こちらはわたくしの施した力なのですよね。危険なことはないのでは……」
「中にジョンがいる」

 リーゼロッテの手を掴んで、引き寄せる。ジークヴァルトはそのまま手を離そうとしなかった。

 仕方なしにリーゼロッテはもう一度ジョンに呼び掛けた。

「ジョン……わたくしの言葉を聞いて。お願いよ」

 瞳を閉じて気配を探るも、何も反応は返ってこない。ただ、繭玉の緑が煌々(こうこう)と輝き、その場を早春の冷たい風が吹き抜けていく。

「ヴァルト様、手で触れるだけですから」

 もう一度懇願する。あの日の苦しい状態のまま、ジョンがこの中にいる。そう思うと、一刻も早くオクタヴィアの思いを届けたかった。

「お願いですわ、ヴァルト様」

 ぎゅっと眉間にしわを寄せたジークヴァルトは、リーゼロッテを下へと降ろした。

「触れるだけだ。オレからは離れるな」
「はい」

 後ろから小さな手を取り、自身の手を重ね合わせる。ジークヴァルトはそのままリーゼロッテの手のひらを繭玉へと押し付けた。

「ジョン、そこにいるんでしょう? 今日は大切なことを伝えに来たの。オクタヴィアはあの日、命を落としたりしなかったの。しあわせに生きて、もう天に昇っていったわ」

 手のひらに意識を集中させるが、自分の力の波動が返ってくるだけだ。身になじんだそれは、ゆらゆらと体の中を出入りしている。ただかすかに、繭玉の中にゆりかごのような(かたまり)が感じ取れた。

(駄目だわ……完全に心を閉ざしている)

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