野いちご源氏物語 三九 御法(みのり)
中宮(ちゅうぐう)様は、お(さと)()がりのときに養母君(ははぎみ)看取(みと)れたことを、悲しいとも、よかったともお思いになる。
どなたも(むらさき)(うえ)の死を受け入れられず、夢のなかをさまよっているような心地がなさる。
正気(しょうき)(たも)っている人はいない。
女房(にょうぼう)たちも茫然(ぼうぜん)としている。

源氏(げんじ)(きみ)も冷静ではいらっしゃれないけれど、ご子息(しそく)大将(たいしょう)様を呼んでお命じになった。
「亡くなったようだから、長年望んでいた出家(しゅっけ)をこの(さい)させてあげようと思う。(あま)になるのを許さないまま旅立たせるのは気の毒だから。お祈りの僧侶(そうりょ)たちのなかに、まだ残っている者がいるだろう。もはや命を()ばせるわけではないが、死んだあとの世界で、この人が暗闇(くらやみ)に迷わないように出家させたいのだ。そう伝えよ。しかるべき僧侶は誰が残っているか」
お気を強く持っておっしゃるけれど、お顔は真っ青で、涙は止まらない。

妖怪(ようかい)のせいで一時的に気を失っておられるだけでしたら、ご出家は来世(らいせ)のために効果がありましょう。しかし、もう本当に亡くなっていらっしゃるのなら、今さらお(ぐし)だけ切ったところで来世のためにはならず、父君(ちちぎみ)のお悲しみが増すだけではございませんか。それはどうかと存じます」
僧侶たちをお集めになると、大将様はご出家のことはおっしゃらず、お(きょう)を読むことなどを指示なさった。
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