野いちご源氏物語 三九 御法(みのり)
女房(にょうぼう)たちは混乱と動揺(どうよう)で頼りにならない。
源氏(げんじ)(きみ)はそれ以上でいらっしゃるけれど、無理やりお心を静めて、ご葬儀(そうぎ)手配(てはい)をなさる。
これまでも目の前で女君(おんなぎみ)を亡くされたことはあった。
でも、どなたも頼れないことは初めてなの。
(むらさき)(うえ)のご葬儀を取り仕切れるのは源氏の君以外にいらっしゃらない。
あちこちから判断を()かされて、これまでにない苦しみのなかで悲しまれる。

その日のうちに火葬(かそう)なさった。
いつまでも亡骸(なきがら)を見つめて過ごすことはおできにならない。
広い火葬場にお見送りの人がたくさん集まって、おごそかな作法(さほう)でご葬儀が行われる。
その盛大さとは正反対に火葬の(けむり)はか細い。
はかなく空へ上っていかれるのが悲しくて、源氏の君は地に足がつく感じがなさらない。
家来にもたれかかってやっと立っていらっしゃる。

三十年近く前、大将(たいしょう)様をお生みになったご正妻(せいさい)がお亡くなりになったときは、まだあたりを見回す余裕がおありだった。
今回は目の前が真っ暗で、ただ泣きまどっていらっしゃる。

日が高く上って現実を突きつけてくる。
<もう人生が嫌だ。紫の上がいなくては一日も生きていられない。このどさくさに(まぎ)れて出家(しゅっけ)してしまおう>
とお思いになるけれど、妻が死んだ直後に出家すると、心の弱い男だと世間から笑われてしまうの。
<もうしばらくこのままでいて、落ち着いたころに出家しよう>
そうお決めになっても、お胸から悲しみがこみ上げる。
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