野いちご源氏物語 三九 御法(みのり)
夕暮れ時になると風が強く吹きはじめた。
お庭の花壇(かだん)を見ようと、(むらさき)(うえ)は物に寄りかかって座っていらっしゃる。
「今日はよく起きておられるのですね。中宮(ちゅうぐう)様がおいでだと、ご気分が明るくおなりになるようだ」
中宮様がご病室にお越しだと聞いて、源氏(げんじ)(きみ)も紫の上のところにいらっしゃった。

<座って外を(なが)めているだけのことで、とてもうれしそうにしてくださる。そんな源氏の君を見るのがつらい。私が死んだらどれほどお(なげ)きになることか>
源氏の君がおつらくなるだけだから、あまり期待なさらないでほしいとお思いになる。
「お別れのときは近づいております。今の私の命は、あの(はぎ)の花の(つゆ)くらいのものでございましょう。次の瞬間にはどこかへ吹き飛ばされてしまってもおかしくありません」

お庭の萩は強い風に吹かれて、長い枝が波打つようになびいている。
執着(しゅうちゃく)するほどのこの世ではないのだから、どちらが先だろうとすぐに追いかけますよ。あなたをひとりにはしません。一緒にあの世へ行きましょう」
流れる涙を払うこともできずに源氏の君がおっしゃる。
「誰の命も同じでございます。私もすぐに参ります」
中宮様も泣きながらおっしゃる。
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