すれ違いだらけの婚約関係は、3年越しのファーストキスでやり直しましょう ~御曹司の婚約者が嫉妬深いなんて聞いてません!!~
「あ、あの、」
「なんだ」
「髪、自分で乾かせるんですけど…」
「………」
「…よろしくお願いします」
弱い。あまりにも弱すぎる。もっと頑張れ自分。
無言で見つめられたぐらいの圧に負けた自分を恨みかけるが、一度は抗った自分を褒めるべきかと思い直す。
そんなことを考えてある私は、絶賛高見さんに髪を乾かされている。お風呂上がりにドライヤーを探していたところ、なぜかドライヤーを持って待ち構えていた高見さんと遭遇したのだ。
色々聞きたいことはあるが、とりあえず怖い。ここは大人しく従っておこうと、身を固めていた。
それにしても、高見さんドライヤーがお上手だ。
(…もしかして、他の方にやってあげてるのかな)
私を練習台にしたかったのか。ああ、そういうことなら納得だ。わざわざ高見さんが、私に世話を焼く理由がない。
(………馬鹿みたい)
もう十分泣いたはずなのに、また泣けてきた。アルコールは人を脆くする。
こんな所で泣いても、引かれるだけなのに。
頬に伝っている涙を止めようと、キツく目を閉じる。しかし涙は一向に止まってくれなかった。
格闘している間に、無常にもドライヤーの風が止まってしまった。
「…泣いてるのか?」
静かに問われる。なんて答えるのか正解なのか分からず、首を横に振る。
でも、火を見るよりも明らかな嘘。
「嘘つくな。どうして泣いてるんだ?」
「……」
「帰ってきた時も目元が晴れてたよな?居酒屋で泣くようなことになったのか?」
高見さんが見逃してくれるわけもなく、追加の質問が飛んでくる。
これ以上見られたくなくて、雑に涙を拭いながら、椅子から立ち上がった。
顔をロクに見られないまま、小さくお礼だけ言ってリビングを出るために、早足で扉に向かう。
必死だった。取り繕えなくなっている自分を人前に出したくなかった。