すれ違いだらけの婚約関係は、3年越しのファーストキスでやり直しましょう ~御曹司の婚約者が嫉妬深いなんて聞いてません!!~
多少の残業の後、ようやく帰路につけた。
頭の半分以上をこの件に持っていかれていたため、仕事に集中できなかった1日にため息をつく。残業なんていつぶりだっただろう。
(どうしよう。いっそのこと、どこかホテルに連泊……いやいや、浮気とか疑われたら嫌だし、どんな報復が待っているか…)
愛情はないが、祖父同士の取り決めの婚約。私の行動で、もし相手の顔に泥を塗るようなことになってしまったら、謝って済む話ではないだろう。相手は、大企業の次期社長。
(…大人しく帰ろう。どうせ、相手は部屋に引きこもってるだろうし)
どう考えても、こちらが立場が弱いのだ。それは揺るぎない事実であることは理解している。
だからこそ、波風立てずに1週間過ごすことが、今の私のすべきことだ。
「耐えよう。たった1週間だし、始まれば終わるものよ」
見慣れた高級マンションの最上階を睨む。まるで、魔王城を見上げる勇者のようだ。RPGの勇者の気持ちが少しは分かる気がする。
いざ、魔王城へ。
そんな意気込みで、エントランスを潜ったのだった。