すれ違いだらけの婚約関係は、3年越しのファーストキスでやり直しましょう ~御曹司の婚約者が嫉妬深いなんて聞いてません!!~

 ガチャ


 できるだけ音が鳴らないように鍵を開け、薄く扉を開ける。玄関には、見慣れない靴があった。

 (ああ、魔王様はもうご帰宅でしたか)

 コソコソと玄関で靴を脱ぎ、リビングに向かう。スリッパが鳴らないように気をつけながら、扉を開けた。

「た、ただいま帰りました〜…」

 小さな声で挨拶をするも、返事は返ってこない。あれ、誰もいない…?

「あははっ、なーんだ。もうお仕事に戻られたのかな」
「風呂に入ってた」
「うわぁ!?!?」

 後ろから聞こえた低い声に、飛び跳ねる。
 バクバク鳴る心臓を抑えながら振り向くと、そこには髪を濡らした男性が立っていた。

 カジュアルな服をした婚約者は、肩にタオルをかけてこちらを見下ろしていた。


「た、高見さん…」


 高見 奏真さん。27歳。
 大手会社の次期社長でありながら、その地位に依存することなく、多忙を極めている努力家。優れた容姿もしているため、社長令嬢から人気が高いようだ。現に、モデルと聞いても疑わないほどの容姿をしている。


「……こんな時間まで仕事だったのか」
「今日は珍しく仕事が忙しくて…あはは」
「そうか」

 乾いた笑いで誤魔化すも、相変わらずの興味のなさ。まあ、その方が私的にも助かる。会話があっただけでも、今回は珍しい方だ。

 壁際に寄った私を一瞥し、リビングに入る高見さん。その後を追う気にもなれず、静かに自室がある方向に足を進めた。

 自室に入った瞬間、ズルズルとへたり込んでしまった。
 ご飯は食べなくてもいいけれど、お風呂は絶対に入りたい。高見さんはもう入ったらしいし、私も早めに入っておこう。

(1週間、こんな気持ちなのかな)

 すでに憂鬱になっている気分を誤魔化すように、そっと息を吐いた。
< 6 / 19 >

この作品をシェア

pagetop