すれ違いだらけの婚約関係は、3年越しのファーストキスでやり直しましょう ~御曹司の婚約者が嫉妬深いなんて聞いてません!!~
ガチャ
できるだけ音が鳴らないように鍵を開け、薄く扉を開ける。玄関には、見慣れない靴があった。
(ああ、魔王様はもうご帰宅でしたか)
コソコソと玄関で靴を脱ぎ、リビングに向かう。スリッパが鳴らないように気をつけながら、扉を開けた。
「た、ただいま帰りました〜…」
小さな声で挨拶をするも、返事は返ってこない。あれ、誰もいない…?
「あははっ、なーんだ。もうお仕事に戻られたのかな」
「風呂に入ってた」
「うわぁ!?!?」
後ろから聞こえた低い声に、飛び跳ねる。
バクバク鳴る心臓を抑えながら振り向くと、そこには髪を濡らした男性が立っていた。
カジュアルな服をした婚約者は、肩にタオルをかけてこちらを見下ろしていた。
「た、高見さん…」
高見 奏真さん。27歳。
大手会社の次期社長でありながら、その地位に依存することなく、多忙を極めている努力家。優れた容姿もしているため、社長令嬢から人気が高いようだ。現に、モデルと聞いても疑わないほどの容姿をしている。
「……こんな時間まで仕事だったのか」
「今日は珍しく仕事が忙しくて…あはは」
「そうか」
乾いた笑いで誤魔化すも、相変わらずの興味のなさ。まあ、その方が私的にも助かる。会話があっただけでも、今回は珍しい方だ。
壁際に寄った私を一瞥し、リビングに入る高見さん。その後を追う気にもなれず、静かに自室がある方向に足を進めた。
自室に入った瞬間、ズルズルとへたり込んでしまった。
ご飯は食べなくてもいいけれど、お風呂は絶対に入りたい。高見さんはもう入ったらしいし、私も早めに入っておこう。
(1週間、こんな気持ちなのかな)
すでに憂鬱になっている気分を誤魔化すように、そっと息を吐いた。