すれ違いだらけの婚約関係は、3年越しのファーストキスでやり直しましょう ~御曹司の婚約者が嫉妬深いなんて聞いてません!!~
不明確で、不明瞭な___
(集中できない…)
翌日。仕事に全く身が入らない。
理由は、ただ1つ。高見さんの存在だ。
ずっと気を張っているし、家を出る時も高見さんを起こさないように、そっと出てきた。
毎朝のドタバタ出勤をしなかった自分を褒めたい。そのために30分早く起きたという徹底ぶり。
単純に、気疲れしている。頭は痛いし、ため息が勝手に漏れてしまう。
「花井さん」
「ぇ、あ!はい!」
「…大丈夫?顔色が悪いけど…」
「大丈夫です!心配をおかけしてしまい、すみません」
「そう。何かあったら気軽に相談してね」
「ありがとうございます」
上司に心配されてしまい、申し訳なくなる。そんなに顔に出てるかな。
「はぁ…」
「そんなにため息つくと、幸せが逃げるよ」
「楓…」
書類を渡しにきてくれてた楓を見上げる。楓は爽やかに笑うと、お酒を飲むジェスチャーをした。
「今日行く?」
「…いきたい」
「よっしゃ決まりね!花金だし、パーッと気分転換しよ」
事情を話せないことを理解しながらも、こうしてそばにいてくれる。本当にいい友人を持ったものだと、改めて感じる。
「…ありがと」
「なんで泣きそうになってるのよ。ほら、頑張るよ。定時で上がろ」
頑張る理由ができた。絶対早く終わらせて、さっさと飲みに行こう。
(ぁ、連絡、)
スマホを取り出しかけて、戸惑ってしまう。
何ヶ月も会わない間でも、私的な連絡を取ることなんて一度もなかった。スケジュールが送られてくるだけの中に、「今日飲みに行くので、帰りが遅くなります」と打つ勇気は、私には無かった。
(…いっか。高見さんだってお忙しいだろうし)
面倒だと思われたく無かった私は、連絡を入れることなく、そのまま電源を切った。