すれ違いだらけの婚約関係は、3年越しのファーストキスでやり直しましょう ~御曹司の婚約者が嫉妬深いなんて聞いてません!!~

「えーっと。つまり、なかなか帰ってこない同居人が1週間もいるから、家に帰るのが気まずいってこと?」
「そういうこと!ほんと、いい迷惑!!」

 ダンッとビールジョッキを置きながら、私は叫ぶ。

 ストレスとアルコールからか、ちょっと口を滑らせてしまった訳だが、なんとかギリギリ誤魔化している。嘘はついていない。

「んー?そんなに気まずいなら、同居人を追い出すか、自分が引っ越すかすればいいんじゃない?」
「できてたら苦労してないよ〜…」
「ま、そうよね。そこもワケありなのね」

 楓の言葉に頷く。無理やり聞き出すこともなく、楓は一緒に考えてくれる。

「うーん。その同居人は、桃華に何かしてくるの?」
「…ううん。ただ、どう接していいのか分からないだけ」

 チラリとスマホを確認するが、音沙汰ない。
 さすがに残業では言い訳付かない時間だが、特に連絡もない。

 婚約者なんて名ばかりで、お互いの存在は無に等しい。本当にそうなのだ。

「桃華はさ、その人とどうなりたいの?」
「どうなりたい…?」
「うん。3年も同居してるんでしょ?そろそろ何か見えてくるんじゃない?」

 考えたこともなかった。どうなりたいか、なんて…そんなの、

「……その人の邪魔になりたくない」
「え?」

 歪む視界に、ポタポタと落ちる涙。
 慌てている楓の表情さえ、よく見えない。

「なんで私なんだろ」
「桃華…」
「私、何も悪いことしてないよ。巻き込まれただけなの」

 しゃくり上げると、向かいに座る楓が新しいおしぼりを渡してくれる。
 化粧が取れないように拭うも、少し取れてしまった。でも、そんなことを気にする余裕はなかった。

「多分、帰らないといけないんでしょ?」
「…うん」
「なら、そろそろお開きにしようか。でも、私の家はいつでも歓迎だからね。どうしてもの時は、逃げておいで。匿ってあげる」

 その言葉に、また涙が溢れる。

「かえでぇ…」
「目腫れちゃうよ。明日浮腫むから、そろそろ泣き止みな」

 結局その日は、気持ち早めのお開きとなった。

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