貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
夜明けの詩(うた)
「キッチンペーパーってどの箱に入ってたっけ?」
「ええと、もう開けたあっちの箱に入れてたはずです」
新年度。ふたりは、引っ越しの荷解きで忙しく動き回っていた。
新しく選んだふたりの部屋は、築浅でない代わりにとても広い。
駅からのアクセスも悪くないが、もう少し落ち着いたら車を買うことになるだろう。
あのあと、明人は本当に仕事を辞めてしまった。
話し合いを重ねたが、どうしても転勤は避けられなかったらしい。
開発部で注目を浴び続けていた明人が突然辞めたので、社内は騒然としたらしい。
上層部は明人の気が変わるのを最後まで望んでいたが、彼の意思は堅かった。
職を辞してからの明人の動きは、早かった。
まずは、もともとそれなりに売れていた作品の販売。
明人はまずそれなりの金額を費やして、webマーケターの企業に販売経路の設計を依頼した。
明人が執筆しているジャンル、SF小説の読者と親和性の高い複数のメディアに掲載することとなった。
今では情報系エンタメ雑誌、webメディアなどに、たくさんの広告が出ている。
初期投資こそまとまった金額が出ていったものの、これまで個人で細々と販売していたのとは比べものにならないくらいの売上が出た。
そして今は、その仕組みを持続させるための施策を色々と行なっているらしい。