貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

「もうこんな時間かー。一旦やめにして、ご飯食べに行く?」

 詩乃が腰に手を当てて、ふうと息をつく。

 ほとんどの荷解きが終わる頃には、もう日が傾きかけていた。

 ふたりとも荷物は少ない方だったので、荷解き自体は案外あっさりと終わってしまった。

 あとは、明人が持っている大量の本を本棚に仕舞うだけだ。

 とりあえず書斎兼仕事部屋に運び込んだので、これは明人が仕事の合間に少しずつやってもいいだろう。

「ええ。あとは家具の配置を再考するかもしれませんが……まあ、おいおいでいいでしょう」

「お腹空いちゃったな。近くに良いお店あるかな……って、なあにこれ? 可愛いね」

 詩乃がふと横を見ると、座椅子に大きなエプロンが無造作にかけられていた。

 拾い上げて広げてみると、クリーム色に茶色いクマさんの絵柄がプリントされたデザインだった。

「わたしの……?」

 上品すぎるでもなく、子供用ほどポップなデザインでもなく。

 可愛いエプロンなのだが、明人が選ぶものとしては違和感がある。

 詩乃へのプレゼントだとしたら、明人はそう教えてくれるはずだ。

 不思議に思いながら振り返ると、明人は半分呆れたように笑っていた。
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