貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
「私にと、勇悟がくれました。引っ越し祝いだそうです」
「ああ、噂の勇悟さん? バンドやってるっていう」
帝都銀行の元同期だった、親友の勇悟。彼には辞職したことも、同棲を始めることも真っ先に報告した。
「妙に喜んでくれたのはいいのですが、私にエプロンをやると聞かなくて」
明人が腕を組み、厳格な感じの声でいかめしく言う。
「勇悟いわく、『家庭に入るお前に、嫁入り道具としてこれを授ける。これを使って炊事に励むように』……だそうです」
「後方頑固親父面? 逆に新しっ!」
詩乃はけらけら笑いながら、エプロンを広げて眺めた。
真面目で基本的に淡々としている明人が、可愛いクマさんのエプロンをつけてご飯を作っている光景は、ちょっと面白い。
そして、不思議とあまり違和感はない。
もっというと、肉のソテーのときなどに油が跳ねるのが気になっていたので、エプロンは地味にありがたかった。
「ちなみに、本命のお祝い品は高級バスタオルです」
「うわすご! ふわっっっふわ! 素直にありがたっ!」
明人に手渡されたバスタオルを手に取った詩乃は、予想以上に良い品物の手触りにびっくりした。
「嬉しいね。わたしも、なんだかんだプレゼントいっぱいもらったんだ」
オフィスで隣の席の沙耶からは、可愛らしい入浴剤のプチギフトをもらった。
新しくお付き合いを始めた人と同棲するのだと話したら、喜んでささやかな贈り物をくれたのだ。
いつかの女子会で、明人を「最近仲良くしてる人」くらいに話していたメンバーからも、連名でカタログギフトをもらった。