貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
近づく距離
「色々、思い出しちゃって」
全て語り終わった詩乃は、ぽつんと呟いた。
膝を抱えて、ちょこんと座ってうつむいている。
頬には、涙の跡が光っていた。
「大切なお客様を"金づる"として見ちゃった自分が嫌で」
ぽつぽつと話し続ける詩乃。
明人は、ただ黙って耳を傾けている。
「これって、ただ逃げ出しただけなんじゃないかなって……」
言いながらも、語尾が曖昧に濁っていく。
詩乃自身も、まだ自分の気持ちを整理しているのだろう。
もし、あのまま頑張っていたら。
もし、陰口すら届かないほどの素晴らしい成績を上げていれば。
もし、あの職場の全員から認められていたら。
詩乃は、自分らしくいられたのだろうか。