ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
 弱々しい声に驚いた。昔の面影はどこにも見当たらない。
 挨拶すらしないポールを余所に、それでもアンドレアは努めて明るい声を出した。
 他愛のない会話が続き、祖父の負担を鑑みてすぐに退出の時間がきてしまう。

「ふたりとも……近くへ……」

 かすれ声に枕元まで歩み寄った。
 天蓋の隙間から、やせ細った祖父の姿が垣間見える。
 あまりの変わりように、アンドレアの胸はどうしようもなく痛んだ。
 対照的にポールといえば、何か醜悪なものを見たかのような、そんなしかめ面をして数歩後ずさった。

「王太子に子がおらぬ今……王家の存続はそなたたちの肩にかかっておる……王家の血筋を……どうか絶やさないでくれ……」
「お爺様……」
「ご安心ください。お爺様の願い、このポールが確かに聞き入れました」
「そうか……わしはもう長くない……頼んだぞ、ポール……」

 祖父の返事にポールがいびつな笑みを浮かべた。
 その瞬間を見たアンドレアは、胸のざわつきを押さえられなかった。

「アンドレア……顔を……」

 最後に呼ばれ、アンドレアはそっと天蓋をめくった。むぅっとした独特の臭いが鼻を突く。
 間近で覗き込んだ祖父の瞳は、じっと虚空を見つめていた。

「己の犠牲の上での平和など長続きはせぬ……よいか、アンドレア……まずはお前がしあわせになれ……」
「お爺様……」

 自分にしか聞こえない籠った声で囁かれ、アンドレアは目を見開いた。
 祖父は未だ何もない一点を凝視している。
 そこにある違和感は何なのか。
 このときのアンドレアにはそれがよく分からなかった。

「そろそろお時間です」

 医師に促され、後ろ髪を引かれつつアンドレアは王城をあとにした。

「はははははっ」
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