お母さまは魔王さま! ~私が勇者をたおしてお母さまを守ります!~
 勇者が母を倒すために旅立ったと聞いたときには胸がぎゅっとなって苦しかったが、きっと大丈夫だ。
「お母さま、ずっといっしょにいてね」
「もちろん。一緒にいますよ」

 頭をなでなでされて、にへっと笑った。母の手はすごく優しくて、だからいつだって嬉しくなってしまう。怒ると怖いけれど、それを除けば母のことは大好きだ。

 だから。
 アシュリンは小さな胸の中で決心する。
 お母さまは、絶対に私が守る!



 アシュリンは部屋に戻るとさっそく準備を始めた。
 お気に入りの上着とズボンをはいて、なんでも取り出せる魔法の小袋を腰につける。これがあればどこからでも城の中のものが取り出せるが、袋より大きなものは取り出せない。以前はクッキーをキッチンの棚から取り出して食べていたら、サシャリアーナに見つかってこっぴどく叱られた。それ以来は、もっと慎重にバレないようにお菓子をつまみ食いしている。

 準備ができたらこっそりと秘密の部屋に向かった。本当は「魔宝(まほう)の間」と呼ばれているが、サシャリアーナが「秘密の部屋」と呼んでいるから、アシュリンもそう呼んでいた。
 秘密の部屋には大きな鏡がある。これは魔王の血を引く者しか使えない。なんでも望んだものを映してくれる魔法の鏡だ。

「勇者を映して!」
 アシュリンが言うと画像がぼやぼやと揺れ、しばらくのちには勇者の一行が移った。三人の人間が森の中を移動している。
「ようし!」
 アシュリンは気合を入れて鏡に飛び込んだ。

 鏡は水面のようにアシュリンを受け入れ、波紋を広げる。
 やがて波紋が落ち着いたころ、鏡には勇者の前に躍り出たアシュリンの姿が映っていた。
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