お母さまは魔王さま! ~私が勇者をたおしてお母さまを守ります!~
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勇者の一行はゆっくりと森の中を進んでいた。
「もっと急ごうぜ」
仲間の剣士、グラント・ジーダリの言葉に、マントのフードを深くかぶった勇者は苦笑して首を振る。
「まだ急がなくて大丈夫だ。焦るとろくなことはないぞ」
「そうですよ。もっとゆっくり行きましょう」
魔術師のポール・ファニーは息を切らしてそう言った。魔法の杖を本当の杖のように使い、だらだらと汗を流している。茶色の髪が汗で額に張り付き、まんまるの大きな眼鏡は曇っていた。
「お前は体力がなさすぎだ」
ぴしゃりと言う勇者に、ポールはしょぼんと項垂れる。
「だから僕は嫌だったんです。研究塔にあのままこもっていたかった……」
「だが、お告げがあったんだから仕方がないだろう」
「お告げなんてそんな不明確なもの」
「魔術師がそういうこと言うのか?」
グラントが呆れたように言う。
「魔術ってお告げと違ってちゃんと論理に従ってるんですよ。神のお告げは唐突で、なんの裏付けもない。さらに、神官は自分たちが使う魔術を「神術」と称して魔術を下に見る。だから魔術学会と神殿は仲が悪いんです」
「気にしたことなかったよ。神官が治癒術、それ以外は魔術師の担当かと思っていた」
勇者の言葉に、ポールは首を振った。