失恋したので復讐します
「なれるようにがんばってみたら? 別れた男を憎んで泣いているよりずっと建設的だし、自分のためになるだろう?」
「うん……そうかもしれない」
 たとえうまくいかなくたって今より悪くなることはないのだ。なにもせずに自分の不幸を嘆いているよりもずっといい。
 啓人が後悔して落ち込む姿を見たら、きっとすっきりするだろう。
 けれど、そんな啓人の姿を想像しようとして浮かんだのは、かつての優しい笑顔の彼で、千尋の胸を締め付けた。
 彼のことが好きだった。これまでのすべてに後悔しているわけではなく、幸せだった思い出もたくさんある。
「……やっぱり私にはできない。ひどいことをされたとは思うけど、私にも悪いところがあるんだろうし」
 啓人のやり方はとてもひどくて傷つけられたけれど、仕返しをして彼を傷つけたいとまでは思えない。
 今はつらいけれど、少しずつ彼を忘れるようにすればいい。
「……わかった。山岸さんがそう言うなら無理強いはしないよ」
 穂高の顔には失望が浮かんでいるように見えた。
 千尋は気まずさを感じながら口を開く。
「あの、せっかくアドバイスしてくれたのにごめんね。でも相川君に愚痴を聞いてもらったおかげで、少し気持ちが楽になった」
「それならよかった」
 穂高が千尋を見つめながらうなずいた。
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