失恋したので復讐します
 協力するとまで言いだしたのは勢いからだったが、千尋が復讐することで、啓人が悔しがる姿を見られるなら悪くない。
 穂高の提案に乗り、笑顔になった千尋を見ていると、穂高まで気分がよくなったのだ――。

「薄情な穂高がこんなに気を配るなんて、優しくていい子なんだろうな」
 昴流の言葉に穂高は「まあ……」とうなずいた。
「もう少し、あくどくなった方がいいくらいですね」
 千尋の復讐は自分のスペックを上げて、啓人を後悔させるという、誰も傷つけない優しいものだ。
「もっと追いつめてやってもいいくらいなのに」
 啓人がこれまでやってきたことを思えば、爽やかなエリートの仮面を剥ぎ取って、今のポジションから突き落とし屈辱を与えたって許されるだろう。
 千尋がそんなことを望んでいないのはわかっているけれど。
「俺から見たら穂高だって甘いけどな。盗作野郎を放置してるんだから」
 昴流が肩をすくめて言う。
「あんなやつにかける時間がもったいないので」
「千尋ちゃんのフォローはするのに?」
 からかうように矛盾を突いてくる昴流に、穂高は心の中で舌打ちした。
 勘がいい昴流は、他人の深層心理を見抜き突いてくる厄介なところがある。千尋に対する穂高の同情心を見透かしているのだ。
 昴流は穂高が返事をしなくても気にせず話を続ける。
「まあ助けてやりたくなる気持ちはわかるな。彼女、放っておいたら失敗しそうな頼りなさがあるからな」
 さすがは昴流だ。知り合ったばかりの千尋の性格を早くも見抜いている。
「意外と根性はありそうですよ」
 啓人と別れてからまだたったの一週間。完全に立ち直れる時間ではない。
 それでも前向きに自分を高めようとしているのだから、がんばっている。
「……俺とは違って」
 作品を盗まれたときに理不尽と戦わずに見切りをつけた穂高よりも、ずっと根性がある。
「穂高と千尋ちゃんじゃ事情が違うから比べるものでもないだろ? それでも気になるなら、今から反撃すればいいじゃないか?」
「そんな簡単なことでもないし」
「でも失望しながらも辞めないで働いてるってことは、仕事に未練があるからじゃないのか?」
「……わざわざ転職するほどのやる気がないだけですよ。会社なんてどこも同じようなものだろうし」
 ドアが開く音がした。ふたり連れの客が来たので、穂高は昴流との会話を切り上げ接客用の笑みを浮かべた。

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