失恋したので復讐します
四章 自分を変えたい
啓人に突然ふられて十日が経った、十二月半ばの月曜日。
千尋は六時に起床し、張りきって身支度を整えた。
サロンでカットした髪をアイロンで綺麗にセットして、先日買ったデパコスで丁寧に化粧をする。
今までの千尋のメイクといえば、パウダーファンデーションを塗ったら、眉を描いてブラウンのアイシャドウと口紅で仕上げるだけ。
今日からは、カラー下地やコンシーラーなどを使い肌を丁寧に作りこみ、ライトな色の眉マスカラで明るい眉に仕上げ、きちんとアイラインを引いて印象的な目もとになるように細部まで丁寧に色を乗せていく。
文美が言っていた通り、綺麗に色が出る。
慣れないうちはうまくいかないかと心配だったが、手先が器用な方なので、何度か練習しているうちに上達し、それなりに満足がいく仕上がりになった。
(遠目にはBAさんにメイクしてもらったときとあまり変わらないよね?)
間近で見たら粗があるかもしれないが、それなりに成功と言っていいだろう。
今日の服は、スモーキーピンクのニットに白のワイドパンツ。その上にベージュのカシミアのファー付きコートを羽織る。
黒やグレーなど無難な色を選んでいた千尋にとってはチャレンジングな色合いだ。
でも明るい色の服は顔が明るく見える気がする。
鏡を見て少しだけ自信をつけた千尋は、清々(すがすが)しさを感じながら家を出た。
「……おはようございます」
ドキドキしながら建築デザイン部のドアを押し開き挨拶をした。
「え、山岸さん、今日はなんか雰囲気が違うね」
入口近くの席にいるひとつ上の先輩社員が、千尋を見て目を丸くした。早速変化に気づいてくれたようだった。
こんなにすぐ反応があるとは思っていなかったから驚いた。
「あ、髪型変えたんだ」
「はい」
興味を持ってもらえたことがうれしくて、千尋は髪をいじりながらうなずいた。
「いい感じ。すごく似合ってる」
「あ、ありがとうございます」
(変って言われなくてよかった……)
ほっとしながら自席に着く。
啓人を見返すには着飾るだけでは駄目だとわかっているが、それでも成果を感じられるのはうれしい。
(仕事もがんばらないと)