失恋したので復讐します
久しぶりに会ったせいだろうか、以前よりも綺麗になったように見える。見惚れていると、彼女がこちらに視線を向けた。目が合うとうれしそうな笑顔になる。
穂高はまるで誘われるように、彼女のもとに向かった。
鼓動が乱れているのは、柄にもなく緊張しているからか。
「あ、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
千尋は穂高を見ると、輝くような笑顔になった。
相当機嫌がよいのかニコニコしている。
久しぶりに会えたのがうれしくて、彼女の笑顔がまぶしくて、ますます鼓動が速くなる。
「……なんでにやにやしてるの?」
素っ気なく言ったのは、穂高こそにやにやしてしまいそうなのを隠すためだ。
「にやにやなんてしてません」
「鏡貸そうか?」
軽口を叩いていれば、気持ちを悟られることはないのだから。
上司や同僚への挨拶を終えてから千尋の様子をうかがうと、先ほどまでの笑顔から一転、なにかトラブルでもあったのか思い悩んだような表情をしていた。
(……大丈夫なのか?)
心配だが仕事の件なら穂高が口出しすることはできない。
千尋が穂高をサポートするのは可能だが、その逆はなかなか難しいのだ。
「相川!」
心配しているところに、苛立った声がかけられた。
穂高はすっと目を細めて、振り返る。
予想した通り穂高を呼んだのは啓人だった。彼は不機嫌なのか眉間にしわを寄せている。
「はい」
「新規案件の件、設備設計との打ち合わせに出といてくれ」
啓人が言う新規案件とは、埼玉県内の大再開発地域に中規模のショッピングセンターを建設するというものだ。昨年末からスタートした案件で、啓人が主担当を務めることに決まっていた。穂高はプロジェクトのメンバーに入っていない。
「それは辻浦さんの担当ですよね」
「俺は手が塞がっていて空いてるのは相川だけなんだ」
「……辻浦さんは多くの案件を抱えていますからね」
啓人のいつものパターンだ。自ら志願して責任者になるが、実務はほかの社員に回す。無責任だが納期は守られ最終的な成果は啓人の名前で上がる。他人の功績に啓人が乗る形だが、今まで大きな問題にはなっていなかった。
穂高が啓人に対して反感を持っているのは当然本人もわかっているからか、今まで穂高が仕事を押しつけられたことはなかった。しかし今回は年始で忙しいというのもあり、本当に切羽詰まっているのだろう。
「辻浦さんが担当を降りてくれるならいいですよ」
「……は?」
「やるからには中途半端に関わるんじゃなく、最後まで責任を持ってやりたいので。それが無理ならほかの人をあたってください」
穂高が啓人の助けになるような真似をするわけがない。
啓人はあきらかに苛立ち、穂高を睨みつけていた。
しかし本当にほかに頼める人がいないのか、穂高に資料を押しつけるようにすると、自席に戻っていった。
終業後、久々に情報交換しようと千尋に声をかけた。
「山岸さん、この後少し打ち合わせできる?」
「えっ?」
千尋が高い声をあげた。
彼女は周囲の目が気になるだろうから、人がいないタイミングで、目立たぬよう静かに近づき小声で話しかけたせいだろうか。
「ごめん、驚いた?」
「あ……うんちょっと」
千尋と目が合うとすぐに逸らされてしまった。
「もしかして、都合が悪い?」
「あの……大丈夫。あと一時間くらいで終わるから」
千尋の態度は朝と違いぎこちない。
(どうしたんだ?)
よそよそしい態度に違和感があるが、オフィスだからかもしれない。すぐに自席に戻ってから待ち合わせの店をメッセージで送った。
それから一時間後、カフェで待っていると時間通りに千尋がやって来た。
「お待たせ」
先ほどの違和感はすっかり消えていて、いつも通りの笑顔でほっとした。
「辻浦さんになにか言われてない?」
注文を終えて、しばらくしてから気になっていたことを質問した。
「うん。なにかあったの?」
ココアを口に運んでいた千尋が、手を止めて不思議そうな顔をした。
「やけにイライラしてたから、山岸さんにあたってないかと思って」
「今日は話してないよ。依頼メールも来てなかったし。忙しくて不機嫌だったのかな?」
「さあ。でも忙しいのはたしか。俺に仕事を振ってきたくらいだから」
「そうなの? 辻浦君って仕事を押しつけるにしても、最後は自分で仕上げたがるのに」
千尋から見ても啓人のその行動には違和感があるようだ。
「……そういえば葛城さんの様子もおかしかったかも。なにか言いたそうな顔で私のところに来たんだけど、結局なにも言わないで立ち去ったんだ」
「それは変だな」
穂高はまるで誘われるように、彼女のもとに向かった。
鼓動が乱れているのは、柄にもなく緊張しているからか。
「あ、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
千尋は穂高を見ると、輝くような笑顔になった。
相当機嫌がよいのかニコニコしている。
久しぶりに会えたのがうれしくて、彼女の笑顔がまぶしくて、ますます鼓動が速くなる。
「……なんでにやにやしてるの?」
素っ気なく言ったのは、穂高こそにやにやしてしまいそうなのを隠すためだ。
「にやにやなんてしてません」
「鏡貸そうか?」
軽口を叩いていれば、気持ちを悟られることはないのだから。
上司や同僚への挨拶を終えてから千尋の様子をうかがうと、先ほどまでの笑顔から一転、なにかトラブルでもあったのか思い悩んだような表情をしていた。
(……大丈夫なのか?)
心配だが仕事の件なら穂高が口出しすることはできない。
千尋が穂高をサポートするのは可能だが、その逆はなかなか難しいのだ。
「相川!」
心配しているところに、苛立った声がかけられた。
穂高はすっと目を細めて、振り返る。
予想した通り穂高を呼んだのは啓人だった。彼は不機嫌なのか眉間にしわを寄せている。
「はい」
「新規案件の件、設備設計との打ち合わせに出といてくれ」
啓人が言う新規案件とは、埼玉県内の大再開発地域に中規模のショッピングセンターを建設するというものだ。昨年末からスタートした案件で、啓人が主担当を務めることに決まっていた。穂高はプロジェクトのメンバーに入っていない。
「それは辻浦さんの担当ですよね」
「俺は手が塞がっていて空いてるのは相川だけなんだ」
「……辻浦さんは多くの案件を抱えていますからね」
啓人のいつものパターンだ。自ら志願して責任者になるが、実務はほかの社員に回す。無責任だが納期は守られ最終的な成果は啓人の名前で上がる。他人の功績に啓人が乗る形だが、今まで大きな問題にはなっていなかった。
穂高が啓人に対して反感を持っているのは当然本人もわかっているからか、今まで穂高が仕事を押しつけられたことはなかった。しかし今回は年始で忙しいというのもあり、本当に切羽詰まっているのだろう。
「辻浦さんが担当を降りてくれるならいいですよ」
「……は?」
「やるからには中途半端に関わるんじゃなく、最後まで責任を持ってやりたいので。それが無理ならほかの人をあたってください」
穂高が啓人の助けになるような真似をするわけがない。
啓人はあきらかに苛立ち、穂高を睨みつけていた。
しかし本当にほかに頼める人がいないのか、穂高に資料を押しつけるようにすると、自席に戻っていった。
終業後、久々に情報交換しようと千尋に声をかけた。
「山岸さん、この後少し打ち合わせできる?」
「えっ?」
千尋が高い声をあげた。
彼女は周囲の目が気になるだろうから、人がいないタイミングで、目立たぬよう静かに近づき小声で話しかけたせいだろうか。
「ごめん、驚いた?」
「あ……うんちょっと」
千尋と目が合うとすぐに逸らされてしまった。
「もしかして、都合が悪い?」
「あの……大丈夫。あと一時間くらいで終わるから」
千尋の態度は朝と違いぎこちない。
(どうしたんだ?)
よそよそしい態度に違和感があるが、オフィスだからかもしれない。すぐに自席に戻ってから待ち合わせの店をメッセージで送った。
それから一時間後、カフェで待っていると時間通りに千尋がやって来た。
「お待たせ」
先ほどの違和感はすっかり消えていて、いつも通りの笑顔でほっとした。
「辻浦さんになにか言われてない?」
注文を終えて、しばらくしてから気になっていたことを質問した。
「うん。なにかあったの?」
ココアを口に運んでいた千尋が、手を止めて不思議そうな顔をした。
「やけにイライラしてたから、山岸さんにあたってないかと思って」
「今日は話してないよ。依頼メールも来てなかったし。忙しくて不機嫌だったのかな?」
「さあ。でも忙しいのはたしか。俺に仕事を振ってきたくらいだから」
「そうなの? 辻浦君って仕事を押しつけるにしても、最後は自分で仕上げたがるのに」
千尋から見ても啓人のその行動には違和感があるようだ。
「……そういえば葛城さんの様子もおかしかったかも。なにか言いたそうな顔で私のところに来たんだけど、結局なにも言わないで立ち去ったんだ」
「それは変だな」