失恋したので復讐します
葛城理沙は年上相手だろうが物怖じせずに発言するタイプの人間だ。そんな彼女が千尋に対して声をかけるのをためらうなんて違和感がある。
「もしかしてふたりになにかあったのかな?」
千尋がためらいがちに言った。
「さあ。そもそもあのふたりは結局付き合ってるのか?」
啓人が理沙を狙っているのは間違いないだろうが、理沙はどうなのだろう。
「恋人同士にはなったみたいだよ。クリスマスの頃かな」
千尋の意外な発言に、穂高は驚きを覚えた。
「どうして知ってるんだ?」
「見てたらわかるよ」
その返事を聞いた穂高は、胸の中に重苦しさが広がるのを感じた。
あまり察しがいい方ではない千尋が気づいたのは、それだけ啓人をよく見ていたからだろう。
(まだあいつを想ってるのか)
啓人は千尋が想いを寄せるような相手ではない。卑怯で、他人を踏みつけても平然としていられるような人間。
しかし千尋にとっては、結婚を考えるほど愛した相手だ。簡単に忘れることができなくて当然だろうし、割りきれない気持ちがあるはずだ。
啓人の盗用について、許せないと言ってはいる。
けれど彼女は啓人の醜悪さを目の当たりにしたわけではないから、現実味がないのだろう。
「……まだあいつが好きなんだよな?」
「え?」
千尋がカップに伸ばそうとしていた手をぴたりと止める。唖然とした表情で穂高を見た。
「好きだから気づいたんじゃないのか?」
内心の苛立ちが抑えきれず、険しい声になってしまった。
「正直言ってまだ意識しちゃうんだ。でも好きなのとは全然違う」
千尋が少しの沈黙のあとに答えた。
「それなら今はどんな気持ちがあるんだ?」
「それは……恨み?」
とても言いづらそうに発せられたその言葉に、穂高は思わず目を丸くした。
「え、恨み?」
「そうだよ。だって私は彼を見返すためにがんばってるんだから。相川君だって知ってるでしょ?」
どうしてそんなことを言うのとでも思っているのか、千尋が怪訝な顔をする。
「あ、ああ……そうだった」
「……相川君も今日は少し変かもしれない」
「そうだな……自分でもそう思う」
千尋に関しては余裕がない。勘違いをして嫉妬して。そんな情けない男に自分がなるとは思わなかった。
「え、本当にどうしたの?」
千尋が穂高の顔を覗き込んでくる。心から心配してくれているのが伝わってくる純粋なその姿が彼女らしいと感じるのと同時に、まったく意識されていないのが少し悔しくなった。
「しばらく見ないうちに綺麗になったなと思って」
本心だが、こう言ったら千尋が恥ずかしがるのはわかっていた。
思った通り彼女の頬がたちまち赤くなる。
「か、からかってるでしょ?」
「からかってないよ」
心から思っている。本音を誤魔化すように微笑むと、千尋の顔がますます赤くなった。
「山岸さんはがんばってるよ」
動揺したように目が泳いでいる。やがて穂高に視線を合わせると、小さな声でささやいた。
「ありがとう」
その姿は胸が痛くなるほど愛らしくて、穂高をますます魅了したのだった。
「もしかしてふたりになにかあったのかな?」
千尋がためらいがちに言った。
「さあ。そもそもあのふたりは結局付き合ってるのか?」
啓人が理沙を狙っているのは間違いないだろうが、理沙はどうなのだろう。
「恋人同士にはなったみたいだよ。クリスマスの頃かな」
千尋の意外な発言に、穂高は驚きを覚えた。
「どうして知ってるんだ?」
「見てたらわかるよ」
その返事を聞いた穂高は、胸の中に重苦しさが広がるのを感じた。
あまり察しがいい方ではない千尋が気づいたのは、それだけ啓人をよく見ていたからだろう。
(まだあいつを想ってるのか)
啓人は千尋が想いを寄せるような相手ではない。卑怯で、他人を踏みつけても平然としていられるような人間。
しかし千尋にとっては、結婚を考えるほど愛した相手だ。簡単に忘れることができなくて当然だろうし、割りきれない気持ちがあるはずだ。
啓人の盗用について、許せないと言ってはいる。
けれど彼女は啓人の醜悪さを目の当たりにしたわけではないから、現実味がないのだろう。
「……まだあいつが好きなんだよな?」
「え?」
千尋がカップに伸ばそうとしていた手をぴたりと止める。唖然とした表情で穂高を見た。
「好きだから気づいたんじゃないのか?」
内心の苛立ちが抑えきれず、険しい声になってしまった。
「正直言ってまだ意識しちゃうんだ。でも好きなのとは全然違う」
千尋が少しの沈黙のあとに答えた。
「それなら今はどんな気持ちがあるんだ?」
「それは……恨み?」
とても言いづらそうに発せられたその言葉に、穂高は思わず目を丸くした。
「え、恨み?」
「そうだよ。だって私は彼を見返すためにがんばってるんだから。相川君だって知ってるでしょ?」
どうしてそんなことを言うのとでも思っているのか、千尋が怪訝な顔をする。
「あ、ああ……そうだった」
「……相川君も今日は少し変かもしれない」
「そうだな……自分でもそう思う」
千尋に関しては余裕がない。勘違いをして嫉妬して。そんな情けない男に自分がなるとは思わなかった。
「え、本当にどうしたの?」
千尋が穂高の顔を覗き込んでくる。心から心配してくれているのが伝わってくる純粋なその姿が彼女らしいと感じるのと同時に、まったく意識されていないのが少し悔しくなった。
「しばらく見ないうちに綺麗になったなと思って」
本心だが、こう言ったら千尋が恥ずかしがるのはわかっていた。
思った通り彼女の頬がたちまち赤くなる。
「か、からかってるでしょ?」
「からかってないよ」
心から思っている。本音を誤魔化すように微笑むと、千尋の顔がますます赤くなった。
「山岸さんはがんばってるよ」
動揺したように目が泳いでいる。やがて穂高に視線を合わせると、小さな声でささやいた。
「ありがとう」
その姿は胸が痛くなるほど愛らしくて、穂高をますます魅了したのだった。