失恋したので復讐します
六章 恋心


 新年初出勤を終えて帰宅した千尋は、居間に敷いた絨毯の上に、へなへなと座り込んだ。
 思い浮かぶのはつい先ほどの出来事。
『しばらく見ないうちに綺麗になったなと思って』
 うっとりするような魅惑的な笑みとともに、そんなふうに言われたら思考停止する。
「……あんなの平気でいられないよ」
 穂高への気持ちを自覚してからまだひと晩も経っていないのに。
 もちろん浮かれるようなことではないとわかっている。
 彼は啓人を見返すために協力してくれているパートナーだから、千尋の容姿の変化を褒めてくれているだけだ。
 きっと褒めることで千尋の自己肯定感を上げようとしているのだろう。
(でも……あんなふうに笑わなくたっていいのに)
 もともと整った顔が、とても優しい笑顔になって……思い出すと再び顔が赤くなりそうだ。
 千尋は動揺を隠すので精いっぱいだった。自分がなんと返事をしたのかすら覚えていない。
(ばれたら絶対駄目なのに)
 啓人のことなんてすっかり忘れて、穂高が好きになってしまいました。
 そんなことを口にしたら、絶対に引かれる。下手したら軽蔑されるだろう。
(無理、絶対にそれだけは嫌)
 だからこの想いは秘めなくてはならない。少なくとも復讐が成功するまでは。
 しかし穂高と一緒にいると、どうしても気持ちを隠しきれない。
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