失恋したので復讐します
七章 望んだ結末

 穂高とは微妙に気まずいまま数日が過ぎた。
 彼に謝った方がいいのか迷うが、決定的ななにかがあったわけではないから謝罪もしづらい。
(機嫌を悪くさせてごめんなさいって言うのも変だよね)
 実際、あの日以降の穂高は怒っているというわけではなく、普通に会話をしているから、気にしているのは千尋だけなのかもしれない。
 自分から避けているのに、彼に素っ気なくされると傷つくなんて自分勝手だ。
 それに気まずいのは千尋の思い込みかもしれない。
 結局なにもできないままモヤモヤした想いを抱えていた金曜の午後、穂高が千尋の席にやって来た。
「山岸さん」
「え? あ、はい」
 周囲の同僚は席を外している。このタイミングで来たということは、プライベートの話かもしれない。
「今日の夜空いてる?」
「うん……もしかして打ち合わせ?」
 穂高ははっきり答えず、話を続ける。
「大丈夫なら店を予約しておく」
「う、うん、わかった」
 ふたりで会うのは不安があるが、気まずさを解消するチャンスでもある。それに今日の穂高はどこかいつもと違う気がする。
 彼にしては強引な印象で、断ることなんてできなかった。

 穂高が予約を入れたのはイタリアンレストランの個室だった。文美と何度か来たことがある店だ。
 食事をした後、以前のように打ち合わせをするのかもしれない。
 ところが、コーヒーを飲み終えた彼が口にしたのは、思いもしなかった言葉だった。
「山岸さん、少し前から俺を避けているだろう。理由を聞いても答えてくれないから、原因がわからないままだ」
 その話を蒸し返されるとは思わなかったので、動揺してしまう。
 だからといって、好きな気持ちが顔に出るから避けてましたなんて、いろいろな意味で言えない。
 すっかり困り果てた千尋に、穂高が優しく語りかける。
「俺がなにかしたなら言ってほしかったけど」
「相川君に問題があるわけじゃないよ」
 穂高は静かにうなずいた。
「そうだとしても、山岸さんに避けられるとこたえた」
「え……そんな相川君が気にすることじゃないのに」
< 58 / 64 >

この作品をシェア

pagetop