失恋したので復讐します
たしかにかつて好きで尽くした人の、あまりに落ちぶれた姿に胸が痛んだ。でも。
「穂高が隣にいてくれるから大丈夫」
にこりと微笑むと、穂高も安心したように表情を和らげた。
「穂高も長年のわだかまりが解けたんじゃないか?」
昴流が会話に入ってきた。
彼は一連の出来事について、啓人から聞いて知っているそうだ。
(きっと昴流さんも穂高のこと心配していたんだろうな)
「そうですね。ようやく決着がついてほっとしてます。なにより千尋の作品を汚さないで済んでよかった」
穂高が優しい目で千尋を見つめる。
「ありがとう。でもふたりの作品だよ?」
「そうだな」
穂高と微笑み合っていると、昴流の咳払いが聞こえてきた。
「それで、賞は取れそう?」
昴流の問いに、千尋と穂高は目を合わせた。
「たぶん?」
自信なさげに言う千尋に、穂高が不敵に笑う。
「間違いないだろ」
「……そうだね」
ふたりで作った作品なのだ。きっと大丈夫。見つめ合っているとあきれたような声が聞こえてきた。
「仲がいいのは結構だけど、そろそろバイトに復帰してほしいな」
「……千尋と会う時間が減るのはな……」
「それなら穂高がバイトの日は飲みに来ようかな」
和気藹々とした時間が幸せだと感じる。自分の居場所ができた気がした。
アウロラを出た後、千尋は穂高に半ば強引に彼のマンションに連れていかれた。
彼が暮らすのは会社から徒歩で二十分ほどの賃貸マンション。
広めの1LDKで、ひとり暮らしには充分な環境だ。千尋はもう二回泊まっている。
「今日は着替えがないのに……」
「俺の服を着ればいいだろ?」
「だってそれで仕事に行くわけにはいかないでしょ?」
そんなことを言いながらも、千尋自身、穂高から離れたくないと思っているのだ。
「ふたりきりで飲み直したくて。今日は特別な夜だからな」
穂高はグラスとワインを用意してリビングのテーブルに置いた。ソファに並んで座りグラスを手に取る。
「……そうだね」
「乾杯って言ってもいいのか?」
穂高が微妙な表情になる。きっと啓人と部長の未来が暗いのがわかっているからだろう。たしかに彼らはこの先苦労するだろう。でも同情はしない。
「乾杯しよう。私たちだけじゃなくて、今まで傷ついた人たちが気持ちを新たにできるかもしれないから。間違ったことはしてないよ」
「そうだな。千尋がそう言ってくれるなら素直に喜ぶよ」
「うん、そうしよう」
「予想外の形になったけど、千尋の復讐も完全に終わったな」
「うん、そうだね」
「感想は?」
「うーん……復讐をしてすっきりしたのもあるけど、幸せでいっぱいな気持ちが大きい」
穂高に甘えるように寄りかかると、彼がくすりと笑った。
「それはどうして?」
彼の声には期待がこもっているように感じられる。
「穂高と一緒にいられるから」
「俺も同じ気持ちだよ」
穂高が千尋の肩を抱き寄せた。
「あっ……待って、私もう無理だから……」
ベッドにぐったりと横たわる千尋を、穂高が強く抱き寄せる。
お互いなにも身に着けておらず素肌をさらしている。
シャワーを浴びてすぐにベッドに引き入れられてから、もうどれくらい経っているのだろうか。
恥じらう余裕なんてないほど千尋は疲労困憊状態だ。
今夜の穂高はいつも以上に情熱的に愛をささやいてくれる。
何度も抱き合って、キスをして。
体を離すと、おしゃべりが始まる。
「千尋、ここに越してこないか? そうすれば毎日こうして抱きあえる」
「でも毎日一緒だと私は過労で死んじゃうかも……」
穂高の体力はジムで鍛えている千尋もかなわない。
「それなら一緒に眠るだけでいいから」
穂高が不満そうに眉をひそめた。きっと譲歩しているつもりなのだろう。
「ほんとうに?」
「千尋は俺と暮らしたくない?」
急に寂しそうに言われて焦ってしまう。
「まさか」
「それなら明日引っ越してくれば?」
「無理に決まってるでしょ!」
冗談めかして言う穂高に千尋も笑って返す。
「そうだな。残念だけど一緒に住むのは結婚してからがいいか」
「……穂高は結婚を考えてるの?」
「もちろん。独身主義に見えた?」
「そうじゃないけど、私は今年三十だけど、穂高はまだ二十代だから結婚を意識してないかなって」
「ふたつしか変わらないだろ?」
穂高があきれたように言う。
「でもそうだな。千尋が気になるなら、三十になる前に籍を入れるのもいいかもな」
穂高が千尋を見つめながらそっと手を取る。左手の薬指を彼の手が這い、口づけられた。
「プロポーズは改めてするけど、ここは予約させて」
ドキドキと千尋の鼓動が忙しなく高鳴る。
「穂高が隣にいてくれるから大丈夫」
にこりと微笑むと、穂高も安心したように表情を和らげた。
「穂高も長年のわだかまりが解けたんじゃないか?」
昴流が会話に入ってきた。
彼は一連の出来事について、啓人から聞いて知っているそうだ。
(きっと昴流さんも穂高のこと心配していたんだろうな)
「そうですね。ようやく決着がついてほっとしてます。なにより千尋の作品を汚さないで済んでよかった」
穂高が優しい目で千尋を見つめる。
「ありがとう。でもふたりの作品だよ?」
「そうだな」
穂高と微笑み合っていると、昴流の咳払いが聞こえてきた。
「それで、賞は取れそう?」
昴流の問いに、千尋と穂高は目を合わせた。
「たぶん?」
自信なさげに言う千尋に、穂高が不敵に笑う。
「間違いないだろ」
「……そうだね」
ふたりで作った作品なのだ。きっと大丈夫。見つめ合っているとあきれたような声が聞こえてきた。
「仲がいいのは結構だけど、そろそろバイトに復帰してほしいな」
「……千尋と会う時間が減るのはな……」
「それなら穂高がバイトの日は飲みに来ようかな」
和気藹々とした時間が幸せだと感じる。自分の居場所ができた気がした。
アウロラを出た後、千尋は穂高に半ば強引に彼のマンションに連れていかれた。
彼が暮らすのは会社から徒歩で二十分ほどの賃貸マンション。
広めの1LDKで、ひとり暮らしには充分な環境だ。千尋はもう二回泊まっている。
「今日は着替えがないのに……」
「俺の服を着ればいいだろ?」
「だってそれで仕事に行くわけにはいかないでしょ?」
そんなことを言いながらも、千尋自身、穂高から離れたくないと思っているのだ。
「ふたりきりで飲み直したくて。今日は特別な夜だからな」
穂高はグラスとワインを用意してリビングのテーブルに置いた。ソファに並んで座りグラスを手に取る。
「……そうだね」
「乾杯って言ってもいいのか?」
穂高が微妙な表情になる。きっと啓人と部長の未来が暗いのがわかっているからだろう。たしかに彼らはこの先苦労するだろう。でも同情はしない。
「乾杯しよう。私たちだけじゃなくて、今まで傷ついた人たちが気持ちを新たにできるかもしれないから。間違ったことはしてないよ」
「そうだな。千尋がそう言ってくれるなら素直に喜ぶよ」
「うん、そうしよう」
「予想外の形になったけど、千尋の復讐も完全に終わったな」
「うん、そうだね」
「感想は?」
「うーん……復讐をしてすっきりしたのもあるけど、幸せでいっぱいな気持ちが大きい」
穂高に甘えるように寄りかかると、彼がくすりと笑った。
「それはどうして?」
彼の声には期待がこもっているように感じられる。
「穂高と一緒にいられるから」
「俺も同じ気持ちだよ」
穂高が千尋の肩を抱き寄せた。
「あっ……待って、私もう無理だから……」
ベッドにぐったりと横たわる千尋を、穂高が強く抱き寄せる。
お互いなにも身に着けておらず素肌をさらしている。
シャワーを浴びてすぐにベッドに引き入れられてから、もうどれくらい経っているのだろうか。
恥じらう余裕なんてないほど千尋は疲労困憊状態だ。
今夜の穂高はいつも以上に情熱的に愛をささやいてくれる。
何度も抱き合って、キスをして。
体を離すと、おしゃべりが始まる。
「千尋、ここに越してこないか? そうすれば毎日こうして抱きあえる」
「でも毎日一緒だと私は過労で死んじゃうかも……」
穂高の体力はジムで鍛えている千尋もかなわない。
「それなら一緒に眠るだけでいいから」
穂高が不満そうに眉をひそめた。きっと譲歩しているつもりなのだろう。
「ほんとうに?」
「千尋は俺と暮らしたくない?」
急に寂しそうに言われて焦ってしまう。
「まさか」
「それなら明日引っ越してくれば?」
「無理に決まってるでしょ!」
冗談めかして言う穂高に千尋も笑って返す。
「そうだな。残念だけど一緒に住むのは結婚してからがいいか」
「……穂高は結婚を考えてるの?」
「もちろん。独身主義に見えた?」
「そうじゃないけど、私は今年三十だけど、穂高はまだ二十代だから結婚を意識してないかなって」
「ふたつしか変わらないだろ?」
穂高があきれたように言う。
「でもそうだな。千尋が気になるなら、三十になる前に籍を入れるのもいいかもな」
穂高が千尋を見つめながらそっと手を取る。左手の薬指を彼の手が這い、口づけられた。
「プロポーズは改めてするけど、ここは予約させて」
ドキドキと千尋の鼓動が忙しなく高鳴る。