宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 時折視線を感じると、その先にエーミールがいることがある。しかしそれ以上のことは何もない日々が続いていた。

「エラ様はエーミール様をお(した)いしてらっしゃるのでしょう? マテアスの言うように、今一度お話し合いをなさってもよろしいのでは? もちろんその時はわたしも立ち会いますし」
「気持ちはうれしいですが、わたしはリーゼロッテお嬢様のために生きると決めました。それ以外の未来は考えられません」
「そうですか……。エラ様、差し出がましいとは分かっています。ですが、もうひとつだけ言わせてください」

 (かたく)ななエラに、やさしく(さと)すようにロミルダは続ける。

「貴族籍を抜けると、エーミール様は本当に手が届かない存在となってしまいます。でも今ならまだ間に合います。ですからそのことだけは、もう一度お考えになってほしいです」
「どうして……マテアスもロミルダも、そんなにわたしのことを気にかけてくれるのですか……?」

 エラの実家エデラー男爵家は、近々爵位を返上しようと考えている。手続きは進んでいると父親から聞いていた。そう何度も説明しているのに、どうしてだかマテアスは、エーミールと自分の仲を近づけようと進言してくる。

「わたしは侯爵家の出ですからね。貴族籍を抜けたあと、いろいろと苦労してきました。マテアスもその姿を見て育ってきたので、きっとそれで尚更(なおさら)エラ様が心配なのでしょう」

 友人だと思っていた人間のほとんどが、貴族でなくなった途端、手のひらを返したように態度を変えた。使用人など、人とも思っていない貴族も多い。その変貌(へんぼう)ぶりは目を見張るものがあった。
 その上、世間知らずな箱入り令嬢だったロミルダだ。いきなり使用人として生きていくのも、苦難と失敗の連続だったのは言うまでもない。

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