宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 王家の馬車に揺られながら、リーゼロッテは始終そわそわしていた。王都の中心街を越え、そろそろフーゲンベルク領に入る頃合いだ。あと一時間もせずにジークヴァルトに会える。そう思うと居ても立ってもいられなかった。

 そんなとき、(ゆる)やかに馬車が停車した。王家の馬車は目立つので、覗かれないようにと窓のカーテンは引いたままにしてある。街道で事故でもあったのかと、ちょっとだけ隙間から外を見ようとした。

「――……っ!」

 いきなり開け放たれた扉に、驚きのあまり声も出ない。そこに立っていたのはジークヴァルトだった。陽光を背に、手を差し伸べてくる。

「ジークヴァルト様……?」
「迎えに来た」

 会いたいあまり、幻覚でも見たのかと思った。だが抱き上げられた腕は、確かな温もりを返してくる。ぎゅっとしがみつくと、馬車を出てそのまま馬の背に乗せられた。

「行くぞ」

 ジークヴァルトが手綱(たづな)を握ると、馬は軽やかに走り出す。王都の中心を過ぎたとは言え、人の多い往来だ。王家の馬車から姫君が、白昼堂々、黒い魔王に(さら)われていった。そんな噂がこの冬に、王都の街中で語られることになるなど、リーゼロッテは知る(よし)もない。

(ヴァルト様だ、ヴァルト様だ、ヴァルト様だ……!)
 流れる景色に目もくれず、リーゼロッテは横乗りの姿勢で広い胸に抱き着いた。

「あっ、領主様だ!」
「領主さまぁ!」

 興奮気味に手を振る子供たちの横を駆け抜け、フーゲンベルク領に入ったことを知る。そのあとも、道行く人に次から次へと声をかけられた。

(ジークヴァルト様って、とても領民に(した)われているのね)

 夜会などでは貴族たちのほとんどが、ジークヴァルトを前に縮み上がっている。でも彼のやさしさを知っている人はちゃんといるのだ。そう思うとなんだか自分のことのようにうれしくなってきた。

「あの方は奥様かな!?」
「領主様はまだ結婚してないよ。きっと未来のお嫁さまだ!」

 そんな声が通り過ぎざま耳に入ってきて、リーゼロッテは思わず顔を赤くした。いつかジークヴァルトと結婚するのは分かっているが、まだまだ遠い先のことだと思っていた。だがあんなふうに言われると、急に現実味が増してくる。

(わたし、ヴァルト様のお嫁さんになるんだわ……)

 高鳴る鼓動を抑えられないまま、領地の中心街を進んでいく。その先の高台に、フーゲンベルクの屋敷が見え隠れした。

 帰ってきた。急激にそんな安堵が胸に湧く。

 続く坂を登り切って、リーゼロッテは無事に屋敷へと到着したのだった。

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