宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 自分でもちょっと変態チックだなと思いつつ、しばらく扉にへばりついていた。と、ふわっとジークヴァルトの気配が増した。かと思うと扉が引かれ、リーゼロッテは前のめりに倒れ込む。

「ジークヴァルト様……!」
「どうした? 何かあったのか?」

 やさしく抱き留められ、リーゼロッテはその背に手を回した。ぎゅっと力を入れると、ジークヴァルトも強く抱きしめ返してくる。

「ヴァルト様のお顔が見たくて……」

 伺うように見上げると、ジークヴァルトはぐっと眉間にしわを寄せた。疲れているのかもしれない。そう思っても、もうちょっとだけ一緒にいたかった。

「あの……ほんの少しでもいいのです」
「……五分だけだ」

 そう言うとジークヴァルトはリーゼロッテを子供抱きに抱え上げた。扉は開けたままにして、自身の部屋の中へと運んでいく。居間のソファへと座らせると、ジークヴァルトは一度奥の寝室へと引っ込んだ。
 (わく)のない扉から戻ってくると、手にしていた小さな箱を差し出してくる。

「王太子妃からだ」
「アンネマリーから?」

 受け取った小箱を開けると、その瞬間、ふわりとカカオの香りが広がった。中にはふた(つぶ)の丸いチョコが行儀よく鎮座している。数が少ない分だけ高級感が半端ない。

 香りだけで、口の中がもうチョコレートになってしまった。しかしこれから寝ようかという時間帯だ。でも食べたい。だが今食べるのは非常に危険だ。それでも口いっぱいに広がる(なめ)らかな舌触りを想像すると、食べたくて食べたくて仕方がなくなる。

 そんなせめぎ合いを脳内で繰り広げていると、横から長い指がチョコをひと(つぶ)つまみ上げた。「あーん」とともに、リーゼロッテの口元へと運ばれる。
 誘惑に(あらが)えなくて、リーゼロッテは自ら進んでそれを口に収めた。至福の味だ。うっとり口を動かすと、かしゃりと音を立て、チョコは舌の上で崩れ落ちた。

「うんんっ!?」
「どうした?」

 次に広がったのはアルコールの香りだ。舌にしびれる甘苦(あまにが)さを感じて、リーゼロッテは目を白黒させた。

(ウイスキーボンボン!?)

 そう思ったときには時すでに遅く、中から溢れ出た液体(リキュール)をこくりと飲み込んでしまっていた。
 (のど)がかっと熱くなり、全身にアルコールが回っていくのが自分でも分かった。割れた砂糖のシェルが口の中でしゃりしゃりと鳴る。

 目の前の世界がくにゃりと形を変え、次に気づいたらいつもの寝室で、ぼんやりと朝を迎えていたリーゼロッテだった。

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