宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
『あっ、そうか! ヴァルトはリーゼロッテをイカせる自信がないんだ。だったらオレが手伝ってあげるし。ほら、オレって歴代当主が(サカ)ってるのずっと見てきたからさ、あの時みたいに(カラダ)貸してくれたら、秘儀の数々を伝授してあげられ……』
「ジークハルト」
『ん?』

 自室の扉に手をかけ、表情なく呼びかける。あぐらの姿勢に戻って、ジークハルトは背筋を正した。

「お前、殺すぞ」

 ()てつくような青を立ち昇らせる。笑顔のまま口をつぐんだ守護者を廊下に残し、苛立ちを抑えられないまま乱暴に扉を閉めた。

 部屋でひとり大きく息を吐く。

戯言(たわごと)だ。あいつの言葉に(まど)わされるな)
 言い聞かせるようにもう一度息を吐いた。今、彼女に手を出したら、これまでの努力が水の泡だ。

 ダーミッシュ伯爵とは絶対に婚前交渉を行わないようにと、正式に契約を交わしている。それを破れば婚姻が果たされる日まで、リーゼロッテとは一切会わせてもらえなくなる。

 たとえ婚姻の託宣を前倒しして夫婦になれたとしても、その前に空白の日々ができてしまう。ダーミッシュ領は彼女の安全の確保ができない場所だ。リーゼロッテをひとり遠くに置いたまま顔も見ずに過ごすなど、想像するだけでおかしくなりそうだ。

 確実に安全だと分かっている王女の東宮にいるときでさえも、一時(いっとき)も気が休まらない。それなのにそんなことになったら、自分は気が狂ったように彼女を攫いに行くに違いない。

(婚姻の託宣が降りるまでの間だ。それまでは自制しろ)
 扉に背を預け、自分にそう言い聞かせた。

 目先の欲望に身を任せては、彼女とのこれからに(きず)を作ることになる。ダーミッシュ家の信用を失えば、いちばんに苦しむのはリーゼロッテだ。
 明日の白の夜会を彼女は楽しみにしている。よろこぶ顔を見るだけで、今は満足しなければ。

< 115 / 391 >

この作品をシェア

pagetop