宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
(それに今夜、彼女はそこにいる)

 眠りながら壁一枚(へだ)てた向こうに、リーゼロッテの気配を感じ取れる。そんな一夜を明かすのは、言いようのない甘美な苦痛をもたらしてくる。だが自分のこの手が届かない場所にいるより遥かにいい。

 無意識に居間に飾られる肖像画に目を向けようとして、ジークヴァルトははっとなった。隣の衣裳部屋に続く扉から、リーゼロッテの気が濃く感じられる。
 何事かとすぐさま扉を引いた。勢いで倒れ込んできた体を抱き留めると、なけなしの理性が吹き飛びそうになる。

「ジークヴァルト様……!」
「どうした? 何かあったのか?」
「ヴァルト様のお顔が見たくて……」

 上目づかいで言われ、歯を食いしばる。そんな可愛く頬を染めながら言わないでほしい。本当に理性が吹き飛びそうだ。

「あの……ほんの少しでもいいのです」
「……五分だけだ」

 自分にタイムリミットを設け、リーゼロッテを抱え上げる。すぐに帰せるようにと扉は開けたままにした。ソファに降ろすと、ハインリヒ経由で渡された菓子の存在を思い出す。

「王太子妃からだ」
「アンネマリーから?」

 不思議そうに開けられた小さな箱には、香り高いチョコ菓子が入っていた。瞳を輝かせるリーゼロッテに「あーん」とひと(つぶ)差し出した。
 これを食べたら部屋に戻らせよう。五分以上かかるかもしれないが、食べ終わるまでだ。

 口に(ふく)んだ菓子に、リーゼロッテの頬が柔らかく(ほど)けた。このしあわせそうな顔を見るのが好きだ。ずっと見ていたいといつでも思う。
 そんな時、リーゼロッテがいきなり目を丸くした。

「うんんっ!?」
「どうした?」

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