宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 彼女は今、東宮で保護されている。あそこは姉姫であるクリスティーナがいる場所だ。ハインリヒは行ったことはないが、青龍の加護に厚く守られた聖地だと聞いていた。

 ふとジークヴァルトの不機嫌顔が浮かんだ。リーゼロッテと引き離されて、登城してもここ最近は気もそぞろにしている。だが龍から降りた神託に逆らうことなど、王族であってもできはしない。もし自分がアンネマリーと会えなくなったら。そう思うとぞっとした。

「随分と雑念が混じっておいでのようですね。今日はここまでといたしましょう。そのまま深呼吸を三度(みたび)してから目をお開けください」

 神官長の声にはっと我に返る。言われた通りに呼吸をし、ハインリヒはゆっくりと瞳を開いた。

「青龍の御許(みもと)に行くためには、深い瞑想に入る必要があります。余計な思考を抜かないと、その境地に辿(たど)り着くことは叶いません」
「ああ、次からは気をつけよう」

 いまだクリアになりきらない状態から醒めるために、ハインリヒは軽く頭を振った。

「何、歴代の王がみな(こな)されてきたこと。焦らず回を重ねてまいりましょう」

 祈りの間を出て執務室に戻る。王太子用のこの部屋も、いずれ引き払うことになるだろう。
 王位を継ぐ準備は、着実に進んでいる。自分の置かれる立場が否応(いやおう)なしに変わりつつあるのを、ハインリヒは肌で感じとっていた。

(大丈夫だ。わたしはもうひとりではない)

 重圧に押しつぶされそうになるとき、必ずアンネマリーの存在を近くに感じる。今まで通りやるべきことをやり続けるだけだ。それは王になろうとも変わることはない。

 今夜は王城で白の夜会が開かれる。それまで少しでも多く執務を片付けようと、ハインリヒは書類の山に集中した。
< 123 / 391 >

この作品をシェア

pagetop