宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
(そろそろお嬢様を起こさないと……)

 もっと休ませてやりたかったが、夜会の準備も始めなくてはならない。ギリギリの時間まで待ってから、エラはやさしくリーゼロッテを揺り起こした。

「……エラ?」
「おはようございます、お嬢様。(のど)が渇いていらっしゃいますでしょう? どうぞこちらを」
「ありがとう、エラ」

 ぼんやりとした様子でリーゼロッテはグラスを受け取った。何口か水を含むと、少しだけはっきりした瞳で不思議そうにエラを見る。

「わたくし、昨日はいつ眠ったのかしら……?」
「夕べは公爵様がお嬢様をこちらへお運びになられました。アンネマリー様からいただいた菓子に、お酒が入っていたそうですね」
「そうよ! わたくし、ヴァルト様のお部屋に行って……! どうしよう、何も覚えていないわ……」

 頬を包み込みながら、リーゼロッテが涙目になった。

「お嬢様はすぐに眠ってしまわれたようですよ。公爵様も承知してくださっています。何も心配はございません」
「そう……粗相(そそう)をしていないならよかったわ」

 安堵したように笑顔を見せるリーゼロッテを前に、エラは複雑な心境だ。

 昨晩、リーゼロッテの夜着は、胸元まで開いていた。かなり(きわ)どい場所にまでキスマークがいくつもつけられており、公爵に何をされたのかは聞かずとも分かるというものだ。
 首筋の見える場所に残された(あと)は、うまくごまかさないとならないだろう。夜会で誰かに気づかれる訳にはいかないため、それも憂鬱(ゆううつ)の種だった。

 もしあのとき、自分が声をかけなかったら。そう考えると今でも身が凍る。

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