宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 見上げるほど大きな二枚扉から、デビュタントが次々に登場する。緊張した顔で王に挨拶をする様を見やりながら、リーゼロッテは一年前に思いを()せていた。

(わたしもフーゴお義父様とあの赤い絨毯(じゅうたん)の上を歩いたっけ)

 とにかく転ばないようにと、慎重に歩を進めたことを思い出す。自分もこの一年で随分と社交界になじめた気がする。それがなんだかくすぐったく思えて、初々しいデビュタントたちが余計に微笑ましく目に映った。

 白の夜会は社交界デビューを果たす者が主役の舞踏会だ。デビュタントは白を基調とした装いをするのが習わしで、そのため彼らは白の貴族と呼ばれている。白の貴族は父親や後見人と共に、王に成人の挨拶をしに行く。そこで初めて一人前の貴族として認められるのだ。

 王と王妃が並ぶ壇上は去年と同じだ。一年前はその後ろにハインリヒ王子がひとり立っていた。だが今年はその横にアンネマリーがいる。
 仲睦まじげに並び立つふたりを見つめ、リーゼロッテは瞳を潤ませた。悲しい結末に終わると思っていた恋は見事に成就し、今では夫婦となった王子とアンネマリーだ。

 信頼しあう姿を見るたびに、どうしても胸が熱くなってしまう。小さく鼻をすすると、ジークヴァルトが気づかわしげな視線を向けてきた。

「どうした?」
「いえ……ああしてふたりがしあわせそうにしているのが、わたくしうれしくて……」
「お前はいつでもひとのことばかりだな」

 軽く目を細められ、頬に熱が集まった。その表情はアンネマリーを見つめる王子のものとよく似ていて、それが自分に向けられていることに動揺してしまう。

「ヴァルト様だって、今の王子殿下のお姿を見て、本当によかったってお思いになりますでしょう?」
「ああ……そうだな」

 遠い壇上のふたりを見やり、ジークヴァルトは小さく言った。王子とジークヴァルトは子供のころから親しかったと聞いている。龍が決めた相手が見つからない王子の苦悩を、誰よりもそばで見てきたはずだ。

 感慨深そうな横顔を見上げ、ジークヴァルトの託宣の相手が自分だったことに奇跡を感じた。もし龍が選んだ人間が別の誰かだったなら、こんなにもジークヴァルトを好きになることもなかっただろう。

(こうやって隣にいることはおろか、ヴァルト様と知り合うことすらなかったかもしれない……)

 ジークヴァルトが自分以外の誰かを膝に乗せ、あーんをしているところを頭に描く。想像するだけで悲しくなってしまった。

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