宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「どうした?」
「あ、いえ、なんでもありませんわ」

 慌てて首を振ると、ジークヴァルトがそっと頬に触れてくる。見つめられ、途端に鼓動が跳ねあがった。

「リーゼロッテ」
「は、はいっ」
「我慢しなくていい。何かあったらちゃんと言ってくれ」
「ヴァルト様……」

 頬を染め瞳を潤ませる。じっと見つめ合い、そこはすっかりふたりだけの世界だ。

(わたし、本当にヴァルト様と両思いになったんだ……)

 今さらながら改めて思う。一年前は自分の気持ちにすら気づいていなかった。いつからジークヴァルトのことが好きだったのだろうか。自分のことなのに、曖昧でよくわからない。

 そうこうしているうちに、デビュタントたちによるファーストダンスが始まった。こなれたダンスを披露する者もいれば、パートナーのリードでなんとか踊っている者もいる。親子でちぐはぐな動きをしているのは、貴族になりたての男爵家の人間かもしれない。

 彼らにとって初めての、そして貴族としての始まりのダンスだ。何もかもが華やいで見えて、リーゼロッテの心は浮足立った。
 ファーストダンスが終わればフロアが開放される。今日もジークヴァルトと踊れるのだ。それがうれしくて仕方がない。

「ヴァルト様、今日もたくさん踊っていただけますか?」
「今夜は二曲だけだ」

 そっけなく言われて、不満顔になってしまう。王女の東宮でばっちりと足腰を鍛えてきたのだ。今なら本当に何曲でも踊れそうだ。

「わたくしなら大丈夫ですわ」
「これから夜会には何度でも出られる。今は無理をするな」

 明後日には再び東宮へと戻らないといけない。いたずらに体力を消耗するなと言いたいのだろう。急にさみしい気持ちになってしまった。一緒にいる今をたのしみたいのに、何だか水を差されてしまった感じだ。

「いくぞ」

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