宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
他に言いようがなく、ストレートに聞いてしまった。めずらしく呆けた顔になったあと、マテアスは気を取り直したように姿勢を正した。
「ご安心ください。主にそのような趣味は一切ございません」
「え? でも」
「リーゼロッテ様がそのように誤解なさるのも無理ないことです。ですがこのままご心配をおかけするのも忍びませんので、マテアスがなんとか知恵を絞りましょう」
ジークヴァルトが痛みでどうにかこうにか理性を取り戻しているなど、リーゼロッテには思いもよらないことだろう。さっさと自室に連れ込んでくれた方が、マテアスとしては気が楽だ。だが、主が婚姻までは我慢すると言っている以上、それに従うよりほかはない。
「なんの話だ?」
「いえ、今宵の晩餐のメニューについてお話を」
するっと嘘がつけるマテアスは、敵に回すと恐そうなタイプだ。リーゼロッテは時々、そんなふうに思っていた。
実際にマテアスは公爵家を守るためなら容赦はしない。それはフーゲンベルク家では知れ渡っていることである。
使用人のすべての家系、資産状況、交友関係から借金の有無まで、ありとあらゆることを掌握している。その情報を個人的に悪用することは決してないが、日々恩を売り、弱みを握り、長い時間をかけて公爵家の影の支配者の立場を築き上げてきた。
要するにこの家で、マテアスに逆らう者は皆無ということだ。先ほどの公爵家の呪い対策も、マテアスの意のままに動く人間が大勢いてこそ成り立っている。
「旦那様、少々お耳に入れたいことが」
マテアスが小声でジークヴァルトに話しかける。聞き耳を立てないよう、リーゼロッテは気を使ってひとり遠いソファへと腰かけた。
「誠に残念なお知らせです。リーゼロッテ様に自虐趣味を疑われております。わたしとしては旦那様の努力を買ってさしあげたいところですが、今後は呪いの発動を阻止するために頭を打ち付けるのはお控えください」
そう耳打ちされて、ジークヴァルトの眉間にしわが寄る。
「ご安心ください。主にそのような趣味は一切ございません」
「え? でも」
「リーゼロッテ様がそのように誤解なさるのも無理ないことです。ですがこのままご心配をおかけするのも忍びませんので、マテアスがなんとか知恵を絞りましょう」
ジークヴァルトが痛みでどうにかこうにか理性を取り戻しているなど、リーゼロッテには思いもよらないことだろう。さっさと自室に連れ込んでくれた方が、マテアスとしては気が楽だ。だが、主が婚姻までは我慢すると言っている以上、それに従うよりほかはない。
「なんの話だ?」
「いえ、今宵の晩餐のメニューについてお話を」
するっと嘘がつけるマテアスは、敵に回すと恐そうなタイプだ。リーゼロッテは時々、そんなふうに思っていた。
実際にマテアスは公爵家を守るためなら容赦はしない。それはフーゲンベルク家では知れ渡っていることである。
使用人のすべての家系、資産状況、交友関係から借金の有無まで、ありとあらゆることを掌握している。その情報を個人的に悪用することは決してないが、日々恩を売り、弱みを握り、長い時間をかけて公爵家の影の支配者の立場を築き上げてきた。
要するにこの家で、マテアスに逆らう者は皆無ということだ。先ほどの公爵家の呪い対策も、マテアスの意のままに動く人間が大勢いてこそ成り立っている。
「旦那様、少々お耳に入れたいことが」
マテアスが小声でジークヴァルトに話しかける。聞き耳を立てないよう、リーゼロッテは気を使ってひとり遠いソファへと腰かけた。
「誠に残念なお知らせです。リーゼロッテ様に自虐趣味を疑われております。わたしとしては旦那様の努力を買ってさしあげたいところですが、今後は呪いの発動を阻止するために頭を打ち付けるのはお控えください」
そう耳打ちされて、ジークヴァルトの眉間にしわが寄る。