宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「ならばどうすればいい?」
「要は(よこしま)な衝動を発散できればよろしいのでしょう? それでしたら……」

 こそこそと話し合うふたりに、リーゼロッテはそ知らぬふりをしている。心やさしい彼女のためにも、なんとか代替案(だいたいあん)を提示しなくては。

「晩餐まではまだ時間があります。もうしばらくこちらでごゆっくりなさってください」

 密談は済んだのか、紅茶と茶菓子を用意しながらマテアスが笑顔で促してくる。当たり前のようにリーゼロッテは、ジークヴァルトの膝の上に収まった。

「本日の菓子は、泣き虫ジョンのアーモンドケーキでございます」
「ジョンのアーモンドケーキ?」
「はい、ジョンの立っていた木に実がなりましたので、料理長自らが腕を振るいました」
「あの木はアーモンドだったの?」
「ええ、春先に薄桃色の花が咲きましたでしょう?」

 ジョンが天に還った後、枯れていた枝が一斉に花開いた。桜のような花だったが、その花びらは散ることなく美しく咲き誇っていたことを思い出す。

「あーん」

 目の前に差し出されたケーキを、リーゼロッテは条件反射のように口にした。晩餐は自分の手でいただくのだ。今のうちにノルマを消化するのは何の抵抗もない。ケーキがなくなるまで黙々と口を動かすと、リーゼロッテは最後に輝くような笑顔でジークヴァルトの顔を見上げた。

「とっても美味しかったですわ」

 唇に残ったかけらを、舌でペロッと舐めとった。その動きにくぎ付けとなっていたジークヴァルトの動きがぴたりと止まる。
 直後、手にしていた皿とフォークを、ジークヴァルトはテーブルの上に素早く戻した。間髪置かずにリーゼロッテを膝からやさしく降ろすと、無言のまますっくと立ち上がる。

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