宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 動揺したまま曲が終わると、貞子紳士は貴族たちの波に埋もれて見えなくなってしまった。

 二曲続けて踊り、ダンスフロアを後にした。次は挨拶回りだ。と言ってもジークヴァルトはもっぱら挨拶される側なので、特に歩き回らなくても向こうから勝手に来てくれる。見知った者から誰だっけと思う者たちまで、次から次にやってきて、ジークヴァルトと会話をする暇もなかった。

 淑女の笑みを張りつけて黙って横に立っていると、ちょっとおどおどした感じの男が近づいてきた。

「あの……フーゲンベルク公爵様、先日は娘を茶会にお招き頂きまして、誠にありがとうございました」
「へリング子爵、招いたのは彼女だ」
「ダーミッシュ伯爵令嬢様、昨年の白の夜会で娘がご迷惑をおかけしたにもかかわらず、寛大なご対処をありがとうございました。ほら、クラーラもご挨拶しなさい」

 後ろに隠れるようにしていた令嬢が、同様におどおどと顔を出す。

「あ、あの、リリリーゼロッテ様、ごぶごぶご無沙汰しております」
「クラーラ様もお元気そうでなによりですわ」

 クラーラは昨年の白の夜会のファーストダンスで、見事に転んだ令嬢だ。クラーラは異形の者に憑かれやすい体質で、悪意ある異形が彼女を転ばせるところを、あの日リーゼロッテはばっちり目撃していた。

(よかった、クラーラ様にはもう異形の者は取り憑いていないみたい)

 贈った守り石が効いているのだろう。クラーラは異形が起こす(さわ)りのせいで、近づくと不幸が移る令嬢などと()しざまに言われているらしい。リーゼロッテを巻き込んでの転倒事故で、その噂に拍車がかかっているとエラが言っていた。

「お茶会にまで招いていただいて、わたし、じゃなかったわたくし、なんとお礼を言ったらよいか……」
「あの日クラーラ様はビョウをお持ちくださいましたでしょう? 冬に大好きなビョウをいただけて、わたくし本当にうれしかったですわ。あのあとパイにして美味しくいただかせて頂きました」

 へリング領はリンゴそっくりな果実、ビョウの産地で有名だ。季節外れのビョウは酸味が強くて、アップルパイにもってこいだった。

「我が領のビョウをそんなにもよろこんでいただけて光栄です。ちょうど今が旬ですので、もっといいものを近いうちにお届けに上がります」
「まあ、わたくし、なんだかへリング子爵様に催促してしまったみたい。お恥ずかしいですわ」

 和やかに笑いあって親密な関係をアピールする。公爵の婚約者である自分と親しいとあれば、クラーラの噂もそのうち、根も葉もないものとなるだろう。

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