宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「変わった風味のするお料理ですわね」
「これはビンゲンだな。バルテン領の特産だ」

 聞きなれない食材に首をかしげる。グラスの水を、ジークヴァルトは一気にぐいとあおった。

「ヴァルト様は苦手でいらっしゃいますのね」
「食べられないわけではない」

 くすくす笑うと、ジークヴァルトはすいと顔をそらした。新たな一面を見られてうれしくなる。もっと知りたいと思うし、自分のことももっと知ってほしいと思った。

(受け身なだけじゃ駄目なのよね……ちゃんと思ったことを口にしないと)

 言葉に出さずとも、目と目で通じ合う関係には憧れる。だがどれだけ思い合っていようと、ふたりはやはり別々の人間だ。考えすぎて、すれ違ってしまったあの日々を思い出す。それを笑い話にするためにも、これからはきちんと思いを伝えていこう。

「あの、ヴァルト様」
「なんだ?」
「わたくしに言いたいことがあったら、ヴァルト様も隠さずきちんとおっしゃってくださいませね」

 先ほども我慢せずに言えとジークヴァルトに言われた。両思いになった今でも、ジークヴァルトが自分を頼ることはほとんどない。それはやはりさびしくて、そのことだけは知っていてほしかった。

「それなら今まで何度も言ってきただろう」
「え?」
「お前はお前のまま、そのままでいてくれればいい」

 大きな手で頬を包まれる。そっと唇をなぞられて、ぼっと全身が真っ赤になった。

 訴えるたびに幾度も返されたその言葉は、ずっと拒絶のしるしだと思っていた。だが今になって知る。それはありのままの自分を受け入れてくれている、ジークヴァルトの愛情表現だったのだと。

「……ですから、そのように甘やかさないでくださいませ」

 恥ずかしくなって(うつむ)くと、(あご)をすくい上げられた。ゆっくりと近づいてくる顔に、ぎゅっと目をつぶる。

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