宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 ジークヴァルトに再会してからというもの、いろんな場面で龍を意識するようになった。星を堕とす者だけではない。ハインリヒ王子にアンネマリー、アデライーデ、そしてジークヴァルトも。みなが龍に縛られているようで――

 守護神としてあがめられている存在が、この国に、そして多くの人間に、重く大きくのしかかっているように思えてならなかった。

(でも、龍の託宣がなかったら……)
 ジークヴァルトとこうして共にいることもなかったはずだ。

 手持ち無沙汰になって、知恵の輪を取り出した。暇つぶし用に持ってきたそれを、不安を振り払うかのようにリーゼロッテは一心不乱に動かした。夢中になってかちゃかちゃといじっていると、次第にごちゃごちゃした考えが消えていく。

 そんなとき、突然ドアノブがガチャリと回った。ジークヴァルトなら声をかけてくるはずだ。だが無言で回され続ける無機質な音に、緊張が走って身が固まった。

(入ってます、とか言った方がいいのかしら……?)
 しかしここはトイレの個室ではない。ジークヴァルトのために用意された専用の控室だ。

 ノブが回されるのは止まったが、今度はかちゃかちゃと小さな音がする。それはまるで泥棒が鍵穴に針金を差し込んでいるような、そんな不穏な音だった。

 次の瞬間扉が開かれ、いきなり背の高い令嬢がひとり飛び込んでくる。驚きのあまりリーゼロッテは、悲鳴を上げかけた。

「しっ、黙って!」

 口をふさがれ、もごもごと声が漏れる。音を立てず扉を閉めた令嬢は、警戒するようにすぐさま内鍵をかけた。扉の外の気配を伺う横顔に、リーゼロッテは思わず息を飲む。


(カイ様がどうして……!?)

 目の前に立つのは、美しく着飾った令嬢姿のカイだった――





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