宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
第10話 龍の思惑
リーゼロッテが公爵と踊る姿を見届けて、エラはそっとその場を離れた。
白の夜会には男爵令嬢として参加した。貴族の立場で大きな夜会に出るのは、恐らくこれが最後だろう。
いつまでもリーゼロッテの姿を目に焼きつけていたかったが、今夜の目的は別にある。王城で催される夜会では、裏方として働く女官も数多い。その姿を求めて、エラは会場の外に用意された休憩室へとひとり向かった。
(顔見知りの女官がいるといいのだけれど……)
準女官試験について、何かしら情報を得たかった。だが仕事中の彼女たちの邪魔をするのも、心証が悪くなるかもしれない。ならばその仕事ぶりだけでも観察しようと思っていたエラだった。
爵位の高い者には専用の控え室が用意されるが、それ以外は空いた部屋を使っていいことになっている。扉が閉まっている場合は誰かしらがいるはずなので、不躾に入るのはマナー違反だ。
休憩室が並ぶ廊下を歩いてみるが、女官らしい姿は見つからない。その辺りを往復するようにうろうろしていると、いきなり二の腕を掴まれた。
「お前、エデラー男爵家の娘だな?」
「あの、あなたは……?」
赤ら顔の中年貴族がそこにいた。この男は確か侯爵家かどこかの人間のはずだ。酒臭い息に顔をしかめながらも、不敬を働かないようエラは男の名を記憶の中から探ろうとした。
「もうお前でいい。こっちに来い」
「えっ!? あのっ」
無理やりに空いている休憩室へと引っ張りこまれる。エラは青ざめて、男の腕を振り払おうとした。ふたりで部屋に入るなど、男女の関係にあると思われても仕方のない状況だ。誰かに見られでもしたら、あらぬ噂の的になる。
「おやめください!」
「逆らうな! おとなしく言うことをきけ!」
こういった夜会では一夜の関係を楽しむ者もいる。しかしそれも合意あってのことだ。いくら身分が上の貴族相手と言えど、酔っぱらいの戯言に従えるはずもない。
部屋の半ばまで連れていかれ、ようやく男の手から逃れた。だが閉めた扉の前に立ちふさがれて、エラは逃げ場を失ってしまった。
白の夜会には男爵令嬢として参加した。貴族の立場で大きな夜会に出るのは、恐らくこれが最後だろう。
いつまでもリーゼロッテの姿を目に焼きつけていたかったが、今夜の目的は別にある。王城で催される夜会では、裏方として働く女官も数多い。その姿を求めて、エラは会場の外に用意された休憩室へとひとり向かった。
(顔見知りの女官がいるといいのだけれど……)
準女官試験について、何かしら情報を得たかった。だが仕事中の彼女たちの邪魔をするのも、心証が悪くなるかもしれない。ならばその仕事ぶりだけでも観察しようと思っていたエラだった。
爵位の高い者には専用の控え室が用意されるが、それ以外は空いた部屋を使っていいことになっている。扉が閉まっている場合は誰かしらがいるはずなので、不躾に入るのはマナー違反だ。
休憩室が並ぶ廊下を歩いてみるが、女官らしい姿は見つからない。その辺りを往復するようにうろうろしていると、いきなり二の腕を掴まれた。
「お前、エデラー男爵家の娘だな?」
「あの、あなたは……?」
赤ら顔の中年貴族がそこにいた。この男は確か侯爵家かどこかの人間のはずだ。酒臭い息に顔をしかめながらも、不敬を働かないようエラは男の名を記憶の中から探ろうとした。
「もうお前でいい。こっちに来い」
「えっ!? あのっ」
無理やりに空いている休憩室へと引っ張りこまれる。エラは青ざめて、男の腕を振り払おうとした。ふたりで部屋に入るなど、男女の関係にあると思われても仕方のない状況だ。誰かに見られでもしたら、あらぬ噂の的になる。
「おやめください!」
「逆らうな! おとなしく言うことをきけ!」
こういった夜会では一夜の関係を楽しむ者もいる。しかしそれも合意あってのことだ。いくら身分が上の貴族相手と言えど、酔っぱらいの戯言に従えるはずもない。
部屋の半ばまで連れていかれ、ようやく男の手から逃れた。だが閉めた扉の前に立ちふさがれて、エラは逃げ場を失ってしまった。