宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「よろしければ部屋の中を確認させていただきたいのですが」
「申し訳ございませんが、ジークヴァルト様に誰が来ても扉を開けないよう言われております」
「そうですか……では、廊下で物音がしたり、何か気づかれたことはありませんか?」
「……そうですわね。言われてみると、先ほどどなたかの足音が聞こえましたわ。奥の廊下へと急いで行かれたようです」
本当に今思い出したというふうに、リーゼロッテは小首をかしげた。扉の向こうの騎士には見えないだろうに、なかなかの演技派だ。礼を言った騎士の気配が遠ざかるのを待ち、カイはリーゼロッテに妖艶な笑みを向けた。
「ありがとうございます、リーゼロッテ様。本当に助かりましたわ」
「カ……ロリーネ様はどうしてここに?」
戸惑いつつも、リーゼロッテは律儀にカイに合わせてくる。
「はは、カイでいいよ。ちょっとヘマやらかしちゃって、ほんと助かった」
ついでに少し休ませて。そう言ってカイは、ソファへと腰を下ろした。そのままスカートをたくし上げ、片足の脛を確かめる。擦り傷で血が滲み、その周囲には盛大な青あざができていた。エルヴィンとやり合ったときのものだ。次に会ったときは絶対に逃がさない。不穏な表情でカイは目を細めた。
「カイ様、そのお怪我は……」
「ああ、ごめん、変なもの見せて。今隠すから」
令嬢によっては失神ものだ。取り出したハンカチを、カイは傷口に巻きつけようとした。
「あ! 少しお待ちくださいませ」
言うなりリーゼロッテがどこからか香水の小瓶を取り出した。カイの前に膝をつき、むき出しの傷に向けてひと吹きすると、しゅっと清廉な空気が広がった。と同時に、ずくずくと疼いていた痛みが引いていく。
「リーゼロッテ嬢……これは?」
「こちらはわたくしの涙を薄めたものですわ。異形を鎮めたり傷の治りを早めたり、なんだかそんな効果があるようなのです」
「何、その便利仕様」
擦り傷は消え、青あざも随分と薄くなっている。乾ききっていない血の跡が、名残で脛についているだけだ。
「……この力、誰にも知られないようにしないと絶対に駄目だよ?」
相変わらず規格外でふざけた力だ。こんな能力が知れ渡ったら、よからぬ奴らに狙われるのは目に見えている。半ばあきれつつも真剣な声音で言うと、リーゼロッテは神妙に頷いた。
龍はなぜこのちっぽけな令嬢に、こんなにもイレギュラーな力を与えているのか。カイはそれが不思議でならなかった。
(星読みの末裔か……)
ラウエンシュタインの謎は、長年託宣の調査を続けてきたカイをもってしても、いまだ何もつかめずにいる。龍の思惑など、自分ごときが推し量れるものではない。それはカイが生まれ落ちたその瞬間から、分かり切っていることだ。
「申し訳ございませんが、ジークヴァルト様に誰が来ても扉を開けないよう言われております」
「そうですか……では、廊下で物音がしたり、何か気づかれたことはありませんか?」
「……そうですわね。言われてみると、先ほどどなたかの足音が聞こえましたわ。奥の廊下へと急いで行かれたようです」
本当に今思い出したというふうに、リーゼロッテは小首をかしげた。扉の向こうの騎士には見えないだろうに、なかなかの演技派だ。礼を言った騎士の気配が遠ざかるのを待ち、カイはリーゼロッテに妖艶な笑みを向けた。
「ありがとうございます、リーゼロッテ様。本当に助かりましたわ」
「カ……ロリーネ様はどうしてここに?」
戸惑いつつも、リーゼロッテは律儀にカイに合わせてくる。
「はは、カイでいいよ。ちょっとヘマやらかしちゃって、ほんと助かった」
ついでに少し休ませて。そう言ってカイは、ソファへと腰を下ろした。そのままスカートをたくし上げ、片足の脛を確かめる。擦り傷で血が滲み、その周囲には盛大な青あざができていた。エルヴィンとやり合ったときのものだ。次に会ったときは絶対に逃がさない。不穏な表情でカイは目を細めた。
「カイ様、そのお怪我は……」
「ああ、ごめん、変なもの見せて。今隠すから」
令嬢によっては失神ものだ。取り出したハンカチを、カイは傷口に巻きつけようとした。
「あ! 少しお待ちくださいませ」
言うなりリーゼロッテがどこからか香水の小瓶を取り出した。カイの前に膝をつき、むき出しの傷に向けてひと吹きすると、しゅっと清廉な空気が広がった。と同時に、ずくずくと疼いていた痛みが引いていく。
「リーゼロッテ嬢……これは?」
「こちらはわたくしの涙を薄めたものですわ。異形を鎮めたり傷の治りを早めたり、なんだかそんな効果があるようなのです」
「何、その便利仕様」
擦り傷は消え、青あざも随分と薄くなっている。乾ききっていない血の跡が、名残で脛についているだけだ。
「……この力、誰にも知られないようにしないと絶対に駄目だよ?」
相変わらず規格外でふざけた力だ。こんな能力が知れ渡ったら、よからぬ奴らに狙われるのは目に見えている。半ばあきれつつも真剣な声音で言うと、リーゼロッテは神妙に頷いた。
龍はなぜこのちっぽけな令嬢に、こんなにもイレギュラーな力を与えているのか。カイはそれが不思議でならなかった。
(星読みの末裔か……)
ラウエンシュタインの謎は、長年託宣の調査を続けてきたカイをもってしても、いまだ何もつかめずにいる。龍の思惑など、自分ごときが推し量れるものではない。それはカイが生まれ落ちたその瞬間から、分かり切っていることだ。