宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「触れられた時ってどんな感じなの? 後学(こうがく)のために教えてよ」
「……とても体が熱くなりますわ」

 少しためらった後、リーゼロッテは聞き取れないような小さな声で答えた。その顔は先ほど以上に赤くなっている。

「ふうん? そうなんだ」
 カイはそう言うと、寄せていた顔を離した。

「これ以上いじめると、ジークヴァルト様に八つ裂きにされそうだ」

 体を起こしウィンクする。リーゼロッテは戸惑いつつも不思議そうな顔をした。
「ジークヴァルト様はそのようなひどいことはなさいませんわ」

(あれ? これはまだ手を出してないっぽい?)

 甲斐性なしのジークヴァルトの事だ。いまだ泣かせるのが怖くて、いたずらに手をこまねいているのかもしれない。
(それはそれでおもしろいから、まあいいか)

 カイは再び意地悪そうな笑みを浮かべて、きょとんと見上げるリーゼロッテを見やっていた。

「カイ様は、イグナーツ父様をご存じなのですよね? わたくし王子殿下にそうお伺いして……」

 話題を変えるようにリーゼロッテが聞いてくる。ダーミッシュ家に養子に出されたリーゼロッテだ。いつか聞かれるかもしれないと思ってはいたが、突然のことにカイも少し面食らった。

「イグナーツ様? ああ、うん、子供の頃に少しだけ」

 カイは曖昧(あいまい)な答えを返した。本当は半年ほどイグナーツのそばで過ごした。あの日々は、カイにとって今もかけがえのない時間だ。

「父様はどんな方なのですか?」

 そう問われ、カイはリーゼロッテのキラキラと期待に満ちた瞳をじっと見つめた。

 イグナーツの為人(ひととなり)をひと言で言いあらわすならば、それはずばり女ったらしだ。手が早く、見境がなく、我慢がきかない。女好きのだらしがない駄目な男の典型だった。
 なまじ見目もよく、モテまくるから始末に悪い。美女はみなのものだというよくわからない持論を振りまき、他人のものでも平気で手を出していた。
 しかも、手を出していい女とそうでない女を、それは見事に見分けていた。子供心にカイはその手腕に感心していたものだ。実のところ悪い遊びのほとんどは、イグナーツから教わったと言っても過言ではない。

 そんなイグナーツの娘であるリーゼロッテに、選んでみても選ぶべき言葉がみつからない。それでもカイはなんとか言いようを探して、懸命にオブラートに包んでみた。

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