宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 ()の部分を指さすと、リーゼロッテは大きな瞳を(またた)かせた。そこにはフーゲンベルクの文字が小さく刻印されている。知恵の輪が目線にまで持ち上げられると、後を追うように緑の力が尾を引いた。

「本当ですわ。わたくしちっとも気づきませんでした」
「リーゼロッテ嬢、もしかしてそれ、随分と長い間持ち歩いたりしてる?」
「えっ、どうしてお分かりになったのですか?」
「その知恵の輪、リーゼロッテ嬢の波動をすごく感じるし」
「わたくしの波動……?」

 取り上げて目の前でゆすってみせる。絡み合った知恵の輪が振り子のように揺れるたびに、あざやかな緑の粉が広がっていく。

「これ、気軽に他人に渡さない方がいいよ。リーゼロッテ嬢の力は異形の者を引きつけるから」

 知恵の輪を手にしたまま扉を開ける。誰もいないことを確かめて、カイは廊下に向けて輪をちゃりちゃりと鳴らした。

「きゃ……っ!」
「はは、やっぱり」

 途端にそこら中にいた異形が集まってきた。穢れた手を懸命に伸ばして、カイから知恵の輪を奪おうとする。
 琥珀(こはく)の力を(はじ)かせて、カイはそれらを遠くに追いやった。知恵の輪をリーゼロッテに手渡すと、そのまま廊下へと出る。

「そろそろ行くね。ジークヴァルト様に見つかったら、オレ本当にただじゃ済まなくなるから」
「ヴァルト様はそんなひどいことはなさいませんわ」
「はは、こんな無邪気でいられたんじゃ、ジークヴァルト様も手を出しづらいか」

 不服そうに首をかしげるリーゼロッテを、面白そうに見やる。流れで令嬢仕様の妖艶な笑みを作った。

「それではリーゼロッテ様、今宵は本当に助かりましたわ。ご縁がありましたら、またぜひお話しいたしましょう?」

 優雅に淑女の礼を取り、扉を閉める。鍵の音を確認してから、カイは足早に潜入捜査に戻っていった。

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