宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
「先ほど部屋に誰か入れただろう?」

 帰りの馬車の中、膝に乗せるなりジークヴァルトが口を開いた。唇がいつも以上にへの字に曲がっている。これはちょっと怒っているのかもしれない。

 しばし目を泳がせてから、リーゼロッテは観念したようにその胸に身を預けた。嘘をついても仕方がない。

「カイ様が……」
「カイが?」
「捜査中にお困りのようでしたので、少しの間だけ部屋で(かくま)いました」
「ふたりきりだったのか?」
「はい……ですが、カイ様は令嬢姿をしていらしたので」

 何も問題ないと思って小首をかしげると、ジークヴァルトの眉間のしわが深まった。

「そういう問題ではないだろう」
「でも見咎(みとが)められることはございませんでしょう?」

 男女で籠っていたのなら問題ありだが、見た目は女同士だ。万が一誰かに見られたとしても、醜聞(しゅうぶん)になるわけでもない。それでもジークヴァルトの瞳は、いまだ不満を訴えてくる。

「申し訳ございません……ですがわたくし、自分では扉の鍵は開けませんでしたわ」
 扉を開けたのも閉めたのもカイだった。リーゼロッテはただ最後に鍵を掛けただけだ。

「いや、いい。詳しいことはカイに聞く。お前が無事ならそれでいい」

 髪を撫でられはっと見上げる。

「あの、カイ様をお責めにならないでくださいませね。お怪我もなさっておいででしたし……」
「ああ、分かっている。もうカイの名は口にするな」

 めずらしく不機嫌な様子に、リーゼロッテはジークヴァルトの顔をじっと見上げた。以前の自分ならまたいらぬ迷惑をかけてしまったと、ただ落ち込むだけだったかもしれない。

(もしかして、カイ様に嫉妬してる……とか?)

「ふ、ふふふ……」
「なんだ?」
「いえ、わたくし、今とてもしあわせで」

 ぎゅっと抱き着くと、ジークヴァルトの身が強張(こわば)った。次の瞬間、馬車の窓がバンバンと叩かれる。増えていく血のりの手形に、分かっていても(おのの)いた。スプラッタホラーは勘弁だ。

「こ、公爵家の呪い……!?」
「大丈夫だ、問題ない」

 ジークヴァルトが窓を手のひらで叩くと、異形がぼろぼろと()がれ落ちていく。次いで小窓のカーテンを閉めきった。

「疲れただろう? 眠っていい」
「ですがわたくし、もっとヴァルト様とお話していたいですわ」

 そう言いつつもリーゼロッテはいつ間にか眠りに落ちてしまった。ジークヴァルトの手つきは本当に心地よくて、気分はもう飼い主に撫でられる子猫のようだ。


 たのしい時間はあっという間に過ぎ去って、夜会から二日後、王女のいる東宮へとリーゼロッテは再び連れていかれたのだった。

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