宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 ここは第一王女が住まう場所だ。レミュリオが言うには青龍の加護が厚く、聖地のようなところであるらしい。だがマルコには神気などまったく感じ取れない。ただ白い悪魔が襲ってくる呪われた地なだけだ。

(あの鶏は王女様が可愛がっているそうだから……)

 変にやり返して怪我を負わせることもできなくて、ただ逃げ回るしかないマルコだった。でなかったらとっくに絞めて、シチューの具材にしているところだ。と言っても神殿に籍を置いたマルコは、二度と肉を口にすることはないのだが。

 そんなことを考えながら睨み返すと、(おび)えたように鶏は「オエッ」と令嬢にすり寄った。安全地帯では(ひる)む理由は何もない。

「どうしたの? 走り回って疲れてしまった?」

 (いた)わるように白い手が鶏の背を撫でていく。あんなにやさしく触れられたら、さぞかし気持ちいいことだろう。見とれるようにその動きを目で追っていると、突然吹いた風がこの枝を大きく揺さぶった。

「ああっ」
「マルコ様……!」

 慌てて伏せるように座る枝にしがみついた。しなりながら揺れる動きに目が回ってくるが、翻弄(ほんろう)されるまま何もできない。令嬢は鶏を守るように抱きしめている。(ゆる)く編まれた三つ編みが風に踊って、この突風の強さが見て取れた。

 ほどなくして吹き止んだ風に胸を撫でおろす。揺れがおさまるのを待って、やっとの思いで身を起こした。

「いたっ」
 走った痛みに顔をしかめる。指先に小さな木片が刺さっていた。思わずそれを引き抜くと、ぷくりと(ふく)れ出た血液が丸い玉を作った。

「マルコ様?」

 気づかわしげな声を聞きながら、途端に冷や汗が吹き出した。

 マルコの両親はクマに襲われ、この目の前で殺された。赤い血は否応(いやおう)なしにそのことを思い出させる。
 限界まで達した赤い球体が、崩れて指を伝いそうになる。震えが止まらない指先を、マルコは咄嗟のように(くわ)えこんだ。

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