宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 そこで言葉を切ると、ヘッダは苦しそうに胸を押さえた。途端に脂汗がにじみ出てきて、震える手つきで常備薬を飲みくだした。
 アルベルトに支えられ椅子へと座る。そのまましばらく背中をさすられて、ようやく呼吸が落ち着いてきた。

「ヘッダ様……それを決めるのはわたしどもではありません。今の言葉は聞かなかったことにします。クリスティーナ様のご意向に沿わないことを、どうぞこれ以上は口になさらないでください」

 淡々と言われ、アルベルトの手を振り払うように部屋を飛び出した。悔しくて仕方がない。あの令嬢さえ現れなければ、この平穏な日々はこれからもずっと続くはずだったのに。

 荒い息のまま寒い廊下で壁に寄りかかった。ふとたのしげな会話が耳に届く。厨房から聞こえてくるその声は、使用人だけではないようだ。耳をそばだてるまでもなく、それがリーゼロッテのものだとすぐに気がついた。

 使用人にねぎらいの言葉をかけ、それを受けた者もまんざらではないように受け答えをしている。長年顔を合わせる使用人たちと、ヘッダは気安く会話をしたことなどない。いつでも事務的な連絡事項を伝えるだけだ。

 どっと笑いが起こる。リーゼロッテを囲んで、誰もがしあわせそうな顔をしていた。そこだけが(まぶ)しく輝いているようで、ヘッダは逃げるようにその場を離れた。

 行き場のない怒りに、にじむ涙を抑えきれない。クリスティーナにいつ呼ばれてもいいように、平静を保たねばならないと言うのに。

 震える息を吐き出しながら、ヘッダは痛む胸に、両の手のひらを押しつけた。

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