宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 ふと、まどろみから浮上する。重いまぶたで見上げると、肩にガウンを羽織っただけのハインリヒが、一点を見つめたまま考え込むように寝台の(ふち)に腰かけていた。

「ハインリヒ……?」

 思わずその腕に手を伸ばす。ゆっくりと振り返り、ハインリヒは少し困ったようなやさしい笑顔を向けてきた。

「すまない……夕べは少し乱暴にしてしまったね」

 やわらかく落とされた口づけは、いつもと変わらないハインリヒだ。そのことに安堵すると、再び眠気が訪れる。

「まだ早い時間だから……君はゆっくり眠っていて」

 そっと(ひたい)(ついば)まれ、魔法にかけられたように、アンネマリーは深いまどろみに沈んでいった。

 気だるくて、体がやけに重く感じる。はっとして身を起こした。素肌の肩からリネンが滑り落ちる。隣にハインリヒの姿はすでにない。
 温もりの消えた冷ややかなシーツを指でなぞりながら、アンネマリーは小さく唇をかみしめた。夕べの思いつめた顔のハインリヒが脳裏に浮かぶ。日増しにあんな表情を見ることが多くなっていた。

 その苦悩に触れても、ハインリヒは何も言ってはくれない。不安が(つの)るばかりで、どうしたらいいのか分からなかった。

(なに弱気になっているの。わたしくはなんのためにハインリヒのそばにいると言うのよ)

 今自分にできることはあるはずだ。顔を上げ、サイドテーブルに綺麗にたたまれていたガウンを羽織る。

 アンネマリーは呼び鈴を鳴らして女官を呼んだ。

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