宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「なんだ痛いぞ、殿下」

 撫でる手を止めたハインリヒが気に食わなかったのか、殿下はもっと撫でろと甘噛みしてくる。

「分かった分かった。かじるんじゃない」

 わしゃわしゃと腹を撫でると、殿下の体が膝の上をひっくり返る。これ以上になく伸びきった体をくねらせて、ピーンとなった前足でご満悦(まんえつ)な様子だ。

 隣室からアンネマリーが何かをしている音がした。それを耳にしながら、なんだか放っておかれているようでさみしい気分になってくる。手を止めたハインリヒの顔に、すかさず猫パンチが飛んできた。

「いっ、顔を殴るやつがあるか。ようし、そんなやつはこうしてやる」

 再び乱暴に撫でくり回す。しばらく殿下と(たわむ)れているも、アンネマリーが気になって仕方がない。

(以前は殿下に癒されてそれで満足していたが……)
 アンネマリーにかまってもらえなくて()ねている自分は、猫の殿下と同じレベルだ。

 ハインリヒの口からふっと息が漏れる。あんなに張り詰めていたものが、アンネマリーがいるだけでこんなにも(ほぐ)れてくる。王位を継ぐことを思うと、今でも暗い気分になる。だが逃げ出したい気持ちをどうにか抑えていられるのも、アンネマリーの存在があってこそだ。

(だが甘えたことばかりも言っていられないな)

 気持ちを切り替えるように深く息を吐く。その行為はあの瞑想の時間を思い出させて、言っているそばからまた重たい気持ちになってしまった。

「ハインリヒ、少しだけわたくしにつき合って?」

 いつの間にか目の前にいたアンネマリーににっこりと肩を押され、ハインリヒはソファの背に体を預けた。首の後ろにクッションを詰められ、上向かされた状態となる。

「アンネマリー、何を……?」
「そのまま目をつむってて」

 眉間に口づけられて、アンネマリーの意図も分からないまま瞳を閉じる。すぐにあたたかい何かがまぶたにそっと乗せられた。同時にふわりと花のようなやさしい香りが漂った。

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