宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「これは……?」
「蒸した布で温めると目の疲労にいいのですって。隣国でよくやってもらったの」
「ああ……確かにこれは気持ちがいいな」

 じんわりと目元が温まって、一緒に疲れが溶けていくようだ。

「ハインリヒはそのままね」

 そう言ってアンネマリーはハインリヒの片手を取った。かと思うと手のひらをやさしく指で押してくる。指の一本一本まで丁寧にほぐされて、次第にハインリヒの体から力が抜けていく。
 アンネマリーの指先は腕を昇って、肩や首まで時間をかけて丹念にマッサージを続けていった。いつの間にか殿下の姿が消えている。あまりの心地よさに、少し寝入りかけていたハインリヒだ。

「このままでは寝てしまいそうだ」
「続きは寝台でしましょうか?」
「いや、すごく楽になった。ありがとう、アンネマリー」

 腰を引き寄せ膝の上に乗せる。ほっとしたような顔を見て、今さらながらアンネマリーに心配をかけていたことに気がついた。

「君も疲れているに、気を使わせてしまったね」
「そんなふうに言わないで」

 悲しそうに顔を曇らせたアンネマリーの肩口に顔をうずめて、抱きしめる腕に力を入れる。

「ああ、そうだな……すまないアンネマリー」
「ハインリヒ……」

 不安に揺れるまぶたに口づけた。

「こんなふうに甘やかされると図に乗ってしまいそうだ」
「わたくしがハインリヒを甘やかさなくて、誰が甘やかすと言うの?」

 その言葉だけでまだ頑張れそうな気がしてきた。アンネマリーさえそばにいてくれたらそれでいい。だがこれ以上甘えてばかりもいられない。

「眠ってしまう前に汗を流してくるよ。アンネマリーは先に休んでて」

 安心させるために笑顔を作った。もの言いたげなアンネマリーを残して、ハインリヒはひとり浴室へと向かった。

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