宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 頭から湯をかぶりながら、苛立つように息を吐く。急激にどうしようもない焦燥感に見舞われた。愛するひとすら笑顔にできない自分は、いつまでたっても不甲斐ないままだ。

(明日はまた瞑想の日か……)

 そのことを思い出すと、再び気が重くなってくる。だが自分は一国の王太子らしくあらねばならない。泣き言ばかりでは、そのうちアンネマリーに愛想をつかされそうだ。

「甘えるな……いい加減、自覚を持て」
 乱暴に髪を洗いながら、言い聞かせるようにつぶやいた。

 湯から上がると寝台でアンネマリーが待っていた。マッサージの続きをしたいと言ってくる。

「ここに横になって?」

 はにかんだ顔で言われ、促されるままうつぶせる。やさしく背を滑る手の心地よさに、思わず寝入りそうになった。

「ありがとう、もう十分だよ」
「いいからハインリヒはおとなしくしてて」

 真剣な声音に、ハインリヒは言われるまま口をつぐんだ。首筋から背骨、肩甲骨(けんこうこつ)と円を描くように滑っていく指先が脇腹にさしかかったとき、ハインリヒはくすぐったくて身をよじらせた。

「動いたら駄目」
「いや、そう言われても……」

 それでもアンネマリーの動きは止まらない。前かがみになって指圧を続けるものだから、背中に押し付けられる柔らかさが気になって仕方がない。

「アンネマリー、その、そろそろ大丈夫だから……」
「もう少しだけ……」
「……だったらお返しに君にもやってあげよう」
「え? あっ駄目、ハインリヒ」

 アンネマリーを抱きしめ、あちらこちらを指圧する、押しているようでアンネマリーのやわらかい場所ばかりを重点的になぞっていった。

「駄目だったら。わたくしがハインリヒを……」
「押しているだけだよ」

 言葉とは裏腹に、気分がどんどん盛り上がってくる。夕べの反省も忘れ、ハインリヒはアンネマリーを存分に味わった。


< 173 / 391 >

この作品をシェア

pagetop