宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「もう、なんて顔してるのよ。仕方のない子ね」
やさしかった手が、いきなりハインリヒの鼻をつまみ上げた。もげそうなくらいにねじり上げられて、ハインリヒは尻もちをつきながら思わずアデライーデの体を押しやった。
「ほら、泣き止んだ」
「アデライーデ、お前な……!」
いたずらっぽく笑うアデライーデに、赤くなった鼻をさすりながら抗議の視線を送る。これも、いつまでたっても泣き止まないハインリヒが、アデライーデに何度もやられたことだ。最もあまりの痛さに、泣き止むどころか余計に大泣きさせられたハインリヒだった。
「もういいから立ちなさい」
手を引かれ、ハインリヒは立ち上がった。つないだ手のぬくもりは、今も昔も変わらない。
眩しく目を細めたハインリヒの前で、アデライーデは再び騎士の顔となった。片膝をつき、忠誠を誓うように深々と頭を垂れる。ダークブラウンの真っすぐなポニーテールが、肩口からさらりとこぼれ落ちた。
「ハインリヒ殿下……国のため、そして民のため、どうぞ良き王とおなりください」
部屋を出ていく凛とした背中を、いつまでも見送った。
姉のように。友のように。時には母のように。いつでも愛情をもって接してくれたアデライーデが、ハインリヒは大好きだった。きっと自分の初恋は彼女だったのだろう。腑に落ちたようにそんなことを思った。
「ハインリヒ……」
遠慮がちにかけられた声に、笑みを向ける。カイが気を遣って呼んだのかもしれない。手を差し伸べるとアンネマリーは、何も言わずに身を寄せてきた。
「わたしは正しき王となる。決して道を誤らぬよう、アンネマリー、わたしと共に歩んでくれるか?」
「もちろんです……そのお役目、王妃として立派に果たして見せますわ」
新年を迎えるとともに、王位継承の儀が執り行われる。その瞳に、もう、迷いはなかった。
やさしかった手が、いきなりハインリヒの鼻をつまみ上げた。もげそうなくらいにねじり上げられて、ハインリヒは尻もちをつきながら思わずアデライーデの体を押しやった。
「ほら、泣き止んだ」
「アデライーデ、お前な……!」
いたずらっぽく笑うアデライーデに、赤くなった鼻をさすりながら抗議の視線を送る。これも、いつまでたっても泣き止まないハインリヒが、アデライーデに何度もやられたことだ。最もあまりの痛さに、泣き止むどころか余計に大泣きさせられたハインリヒだった。
「もういいから立ちなさい」
手を引かれ、ハインリヒは立ち上がった。つないだ手のぬくもりは、今も昔も変わらない。
眩しく目を細めたハインリヒの前で、アデライーデは再び騎士の顔となった。片膝をつき、忠誠を誓うように深々と頭を垂れる。ダークブラウンの真っすぐなポニーテールが、肩口からさらりとこぼれ落ちた。
「ハインリヒ殿下……国のため、そして民のため、どうぞ良き王とおなりください」
部屋を出ていく凛とした背中を、いつまでも見送った。
姉のように。友のように。時には母のように。いつでも愛情をもって接してくれたアデライーデが、ハインリヒは大好きだった。きっと自分の初恋は彼女だったのだろう。腑に落ちたようにそんなことを思った。
「ハインリヒ……」
遠慮がちにかけられた声に、笑みを向ける。カイが気を遣って呼んだのかもしれない。手を差し伸べるとアンネマリーは、何も言わずに身を寄せてきた。
「わたしは正しき王となる。決して道を誤らぬよう、アンネマリー、わたしと共に歩んでくれるか?」
「もちろんです……そのお役目、王妃として立派に果たして見せますわ」
新年を迎えるとともに、王位継承の儀が執り行われる。その瞳に、もう、迷いはなかった。